リーダーズダイジェスト破たんへの道
第38話
一方米国本社でも業務の縮小が始まっていた。
リーダーズダイジェスト米国版の毎号の発行部数は毎月1250万部、読者は4000万人にも達したがリーマンショック後の2008年には820万部にまで落ち込んでしまった。
2009年6月には目標発行部数を500万部に下方修正、発行回数も年12回から年10回に減らした。これを計算すると、米国本社の売り上げも年間250億円ほどしかないことになる。日本で最大の人気を誇る「週刊少年ジャンプ」(集英社刊)が毎週600万部年商570億円、その差は歴然としている。通信販売や海外支社から上がる利益を含めても、多めに計算して年商約600億円荒利は多くても50億円ほどにすぎない。いかに日本支社を助けたのが無茶かということになる。
一方、日本支社の債務額を背負った米国本社はそれに耐えきれず、2007年にはリップルウッドの傘下で経営再建を目指したが、2009年に破産手続きを行うに至ったのだ。この原因はどちらもインターネットの普及が大きな原因である。
まず、リーダーズダイジェストが得意としている「他の記事の要約」では、現在では欲しい記事はインターネットの検索サイトから自分で見つけることができる。かつてリーダーズダイジェストが提供していた世界の話題は、現在ではニュースサイトで個人が簡単に見つけることができるようになった。そのため、自社で魅力ある記事を作らなければ読者を獲得することが難しくなった。通信販売ではネットの普及が通信販売を大きく変えた。アマゾンドットコムが世界中どこにいても世界中どこからでもいろんな商品を見つけては世界中のカスタマーに提供します。どんなジャンルの商品であってもである。
このため、様々な商品を一つずつ紹介しては、はがきで注文を受けるようなリーダーズダイジェストの手法は通じなくなったのだ。雑誌編集から注文を受けるまでの間にネットであれば2~3サイクルの注文の発送と入金手続きが終わっている。これでは従来の販売方法が通じない。そのため通販各社はネットでの販売を強化した。
リーダーズダイジェストでもネット販売を開設しているが良いものとはいえない。アマゾンドットコムと比べると品数やサービスで劣るし何より値引き広告が多すぎてそれだけで客を引き付けている感じがする。これはある意味危険な行為である。安いだけであるなら消費者にとっては歓迎すべきであるが生産者は低コストでの生産を余儀なくされ限度を超えた低価格ではろくなものは生まれない。また低価格路線を走りすぎた結果業績が低迷したり、倒産に至った企業も数多い。かつてダイエーは低価格で消費者の心をとらえたが、中内さんが死去直前は低価格にするだけではもはや客足が戻らなくなっていた。消費者は低価格での限界を感じており多少価格が高くても確かな品質の物を求めるようになっていたが中内さんはそれを見抜けなかったようだ。
名古屋にコメダ珈琲店という有名な喫茶店がある。最近は東京の我が家の近くにもあるがここは名古屋式のモーニングサービスで有名だが決してやらないことがある。それは「値引き販売」と「セットメニューの提供」だ。コメダ珈琲はコーヒーの味に自信があるから東京では一杯400円のコーヒーの値段を下げない。値段を下げることはコーヒーの価値を下げることになるという。だからコメダ珈琲はサンドイッチなどもあるが、セットメニューにすることはできない。セットにして価格を安くすればそれはコーヒーの価値を下げることになるからだ。モーニングサービスもあくまでもセットメニューではなく開店から午前11時までに飲み物を注文した人に店側が好意でつけてくれる「おまけ」である。そのためモーニングサービスはあくまで店側のサービスであり飲み物の値段だけでつけてもらえる。私の父はコメダ珈琲開店当初「そんな商売をしていて成り立つのか?」とまで言ったのだが今では寄り合いでコメダ珈琲に足を運ぶ。その回数はおそらく私より多い。おかげで家の近くのコメダ珈琲は今ではいつも繁盛していてモーニングサービスの時間帯など店が満員で入れないことも少なくない。昨今流行のシアトル系コーヒーよりも価格が高いのにかかわらずである。ある喫茶店の店主がつぶやいたことがある。
「値引きクーポンを付ける店にろくなのはない。値引きすることでしか客を引き付けられないというのはそれ以外に店の売りがないということだ。味が良ければ客は来る」
これこそがリーダーズダイジェストが学ぶべきことだと思う。
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