今、H氏がやるべきこと

第39話

ここまでは「ハッピーネットワーク」の問題点について触れたが、次にどうすべきかを提言したいと思う。

私は直ちに出版業務をやめろとは言わない。それを必要とする人はいるのは確実だからだ。しかし、直ちにやらなければいけないことがある。

今すぐにでもやめなければいけないのは、無差別に限りなく近いダイレクトメールによる勧誘だ。これは既にツイッターでも「ハッピーネットワーク」からダイレクトメールが来ることがもはや面白がられているほどだが、こんなことではもはや勧誘の効果は見込めないだろう。

一般的にダイレクトメールの効果は送った数の20%以上から注文が来なければ失敗と言われている。これはリーダーズダイジェストの例から言える。

従ってダイレクトメールによる勧誘成功事例が20%以下であれば効果はない「同人」を標榜するからにはこの点の利潤は要らないのだろうが、この点においても新たな入会者が10%以下であれば、効果は少ないだけで悪評判による悪影響が大きい。従ってそれ以下であれば直ちに勧誘をやめるべきだ。

それではどうやって会員を集めるかというと、ライオンズクラブや政党のように「現会員の紹介によってのみ新規会員になることができる」とすればよい。それでは新規会員が獲得できないというならば、既存会員に「年1回一人以上の新規会員の紹介」を義務づければよい。但しそれを各会員のノルマにしてはならない。

次に「休会制度」を全廃し、会費を支払えなくなった会員には退会してもらう。ずるずると名簿上に会員を残すより、ここはあえて規模縮小を覚悟で名簿を縮小する。こうすれば規模は小さくなるが、名簿管理のコストは少なくて済む。また退会あるいは除名された人は二度と会員となれないことを明記する。

つまり本気で作品を生み出す人だけを残すのである。

これをたいていの人は「リストラ」というが、本来の英語の意味からするとこれは適切ではない。英語の「リストラ」は、あくまでも「事業再構築」「事業立て直し」を意味し、必ずしも首切りや縮小を意味するものではない。アメリカでは首切りや縮小ではなく、不採算事業の整理統合や主力事業への回帰や積極的な投資によって息を吹き返した企業の方がむしろ多いのだ。

確かにこれで会員と収入は激減するだろう。だが今の時代は規模を縮小してでも生き残りを選択する組織はもはや常態に近い、ましてや拡大一辺倒で驀進している組織はよほどの優良企業でない限りありえない。組織の維持を図るのであれば、拡大より縮小、またはキャラクターなどのサイドビジネスも考えられる。

とにかくむやみやたらと拡大路線に走ることがないよう堅実な経営方針を貫くべきだ。

「ハッピーネットワーク」は盛んにアナログの楽しさをうたっているが、逆を言えばH氏はデジタルへの移行に関心がないということになる。

しかし、地上アナログ放送が終了した今の時代にあっては、もはやネットなしの生活は考えることはできない。ブルーレイが主力の時代にH氏はいまだにカセットテープに音楽を吹き込んでいる。それもカセットテープは既に日本国内では生産されていないにもかかわらずである。これほどまでにデジタルへの移行が進んでいるのには様々な理由があるが、いずれにせよデジタルへの移行は避けられない。

アメリカではすでに大手雑誌はネットによるオンライン発行に移行し、その波に乗れなかったリーダーズダイジェストが倒産するに至った。これはオンライン発行であれば紙や流通費用が掛からないからだ。だから自社記事で原稿を作れる雑誌はオンラインにすれば丸儲けであるが、最初からいろんな記事の寄せ集めであるリーダーズダイジェストはそれができなかった。やってしまえばいくらでも転載ができるからであり、デジタルは複製が容易なためいくらでもコピーが可能であるからである。これでは雑誌と一緒に商品を売りつけるというリーダーズダイジェストのビジネスモデルが成立しないのだ。

ハッピーネットワークもアナログと規模拡大にこだわれば、今後10年以内に経営破たんするのは明確であるため、今のうちから組織を守り規模拡大を抑える方向へ持っていかなければいずれは破たんすると予言しておこう。


(追記)

そしてこの予言は期限の10年を待たずして実現することになった。

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