無駄に終わった再生プラン

第12話

いよいよリーダーズダイジェストがつぶれるという時になると、最後の編集長になる塩谷氏は、リーダーズダイジェストの再建を目論む。それは4億ある資本金を1千万円にまで減らし、従業員も減らしたうえで新会社を設立し、その新会社に米国本社から資金会陰所を受けたうえでライセンスを供与してもらい雑誌発行を続けるというものだった。しかも当時45万部を発行した雑誌の目標部数を10万部にまで減らすという。

塩谷氏のプランはこの点でいえば現実的なものだった。たとえ10万部に部数が落ち込んでも雑誌経営に専念すればやっていける。これを考えたのだ。現在では10万部ならそれだけでも雑誌経営としては成り立つ。あとは従業員の給与を下げて高コスト体質を改善して米国本社の許可を受ければよい。日本の経営者ならだれでも考えそうなことだが、これが給与引き下げを拒む労組と日本からの完全撤退を決定していた米国本社との反発にあう。当時は給与引き下げなど想定外であった。しかも今なら大口郵便の割引制度があるがこれがもう20年早く導入されていればよかったとみる向きもある。

「漱石復刻版事件」は、1979年8月に和解が成立したが、同時に当時の大儀見社長が辞任している。

戦後最大のスパイ事件とも言われた「レフチェンコ事件」も、その発端はリーダーズダイジェストと塩谷氏がすっぱ抜いた記事によるものである。しかし私はこれは統一教会によるスパイ防止法制定の口実としてもともとあったことを大幅に拡張して旧社会党勢力を抹殺する口実であったと思う。日本は防諜に対する意識や防御が低いといわれるが、これは村社会を中心として形成された日本の国情によるものであって、隣三軒家族同然の日本ではみんなで情報を共有して助け合うのが自然であり、それが団結力を生む。もし日本に個人個人が独立したような社会があれば、昨今の東日本大震災のように被災しても6日間で道路を元通りにするような底力は生まれなかっただろう。

かつてシーボルトは「日本は動脈硬化を起こしている、だが、日本国民の底力を甘く見てはいけない」と。ペリーに警告している。ペリーはわずか1年の間に品川に数個の台場ができているのを見てシーボルトの言葉を思い出したという。

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