リーダーズダイジェストのマーケティング方法

第9話

この雑誌の商売も大変風変わりで、1985年当時で書店売りはわずか3万6千部にすぎず残り45万部弱が定期購読というものだった。定期購読者が長く続けてくれればいいのだが、雑誌の名前だけがアメリカから借用したに過ぎず半分が日本語版オリジナルの記事、しかも通信販売の広告が極めて多いようでは読者の反応を得ることは難しかった。この穴埋めをするには毎年100万人にダイレクトメールを送り、その反応があるのがようやく5万人これを毎年やっており、いまみたいなパソコン名簿管理システムなどないから住所録はすべて手書きの時代。このため、1件ごとに印刷費と名簿管理費で500円かかった。郵送費や名簿管理費の合計が毎年5億円かかってしまう。つまり、毎年5億円の新規投資をしないと雑誌が生き残れない。当時の雑誌の単価は一冊480円くらいだったとして、単純計算で年商30億円この6分の1を雑誌の維持に充てていたのである。これでは儲けが出るはずがない、経費はもちろん社員の給料や原稿料も満足に払えず、これが社員や作家の不満を引き起こした。

リーダーズダイジェストが赤字に転落したのは、1970年ごろと思うがそれを境として、定期購読者の比率の増加、部数の長期低迷、通信販売広告の増加が顕著になってくる。リーダーズダイジェストの読者募集のDMによって広くリストが集まってくる。リーダーズダイジェストではレスポンスのことを「Pull」という。米国ではそれが4~9%というから驚くべき数字である。このリストをそのままにしておくのはもったいない。そのリストに対して「すばらしい自然」のような単行本を売っていくのである。このようにしてダイレクトマーケティングのノウハウが蓄積されていったと思われる。

リーダーズダイジェスト日本法人は、最終的には特別清算手続きにより消滅するが、最終的に確定した債務超過額は39億円にのぼった。こんな状態だから米国本社におんぶにだっこの状態になり、これでは返済どころではなく、米国本社は竹橋に出した出資金や債権を全額放棄するからほかの債権者も涙をのんでほしいと訴えたのだが。それで収まるはずがなく結局は米国本社が竹橋の出した債務超過額39億円を全部肩代わりする格好になる。しかし米国本社は社員の給与を支払わず、怒った元編集長たちはニューヨークに行き国連本部前でデモを行いますが、これも週刊新潮に掲載されて失笑を買うことになる。

リーダーズダイジェストは毎年1月にその年のリストを集めるDMを打った。最盛時には年間で400万通ものDMを発行するのである。それに対し、平均で2%~4%のレスポンスがあった。だから8万人~16万人が新規顧客になる。このリストに向けて段階的にDMを打って事業を行っていくのである。

当時の編集長の言うことには「私が大学生のころ 『リーダーズダイジェスト』 を手にした印象は、「やたらと通信販売申込葉書が挟み込まれた雑誌だな」というものでした。日本リーダーズダイジェスト社は、雑誌読者名簿を利用したさまざまな商品の通信販売に業務の7割を充てていた。雑誌出版社でありながら本業に力が入らず社員の士気が低く、そのくせ外資系会社の給与体系で高コスト体質。まさに潰れるべくして潰れたとも言えましょう」と語っている

また、彼はこう言っている。「コカコーラがウィスキーを売らないように、リーダーズダイジェストは雑誌以外の物に手を出す体質ではない」しかしこれは裏を返せば「リーダーズダイジェストは雑誌の編集発行に専念すれば生き残ることができた」ともとれる発言である。残念ながらこの編集長の発言は虚言であった。それは破たん直前のリーダーズダイジェストは雑誌の売り上げは会社全体の売り上げの3分の1以下に過ぎずお世辞にも雑誌社とはいえない状況であったのだ。

塩谷氏によれば、歴代の社長は日本を軽視していた。昭和50年代、日本製のラジオが氾濫している時代に香港製のラジオで読者を引き付けることができると思って配布したら、読者の反感を買った。

このように、マスコミの一角にありながら、時代の変化をみることができなかったことが、リーダーズダイジェストの経営を苦しめることになったのである。雑誌社を単なる通販の顧客であるととらえたときに、すでにこれが大失策であると塩谷氏は回想している。

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