リーダーズダイジェストの体裁

第5話

それでは実際のリーダーズダイジェストの体裁はどのようなものだったかというと、判型はA5版で、30本の記事からなっていた。これは創刊当時から毎日1本の記事を30本そろえれば、1か月で読み切ることができるという考えだった。

当時の日本はダイジェスト文明の真っ盛りで、リーダーズ・ダイジェストは、誌名が語るように、様々な本を、数分間で読みこなせるように、巧みに要約(ダイジェスト)してあり、これを読めば、短い時間で数冊の本を、たちどころに読破したことになる簡便な雑誌だった。

日本人は、それまで長い間、読みたい本も雑誌も読めず、言論も治安維持法や国家総動員法により厳重に弾圧されていたから、情報にも知識にも大いに飢えていた。1冊でも多く読んで枯渇している心の泉を満たしたいとの願望が強かった。換言するならば、たとえ浅くとも知識の範囲を早く広めたいとの志向が働いていた。こんな情勢だったから、リーダーズダイジェストは当時の日本人の志向にぴったりだったのだ。加えて、当時海外渡航はもちろんのことだったが、新聞もラジオも海外の情報を伝えることはほとんどなかった。この意味においても当時海外の情勢を伝える手段としてはリーダーズダイジェストが唯一と言ってもいい存在だったのだ。

ウォレスは多くの大衆雑誌の記事を要約した内容を含む雑誌のアイデアを思いついたことからリーダーズダイジェストを創業した。個人の成功と楽天主義は後のハッピーネットワークにも通じている。但し問題はその大半が他の雑誌の記事の要約であった。これはこれで読者の興味をそそる半面、著作権法の問題も引き起こした。リーダーズダイジェストはウォレスの自宅で創刊され売り出されたこともあって現在でも世界本部はニューヨーク州プレザントビルの彼の旧自宅跡にある。塩谷氏によれば築百年を超えており、幽霊屋敷のようであったという。

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