リーダーズダイジェストの源流

第3話

それではウォレス氏はどこからそのようなアイデアを持ってきたのか。

これについて私は先ごろ国会図書館である本を発見した。それは1887年に博文館から創刊された雑誌という本だった。

博文館は現在では日記帳しか販売していない会社だが、戦前は日本最大の出版社であり、共同印刷など同社をルーツとする企業も多い。

「日本大家論集」は、さまざまな新聞・雑誌に掲載されていた論文を収集選択してまとめたもので、国会図書館の解説すら「既に公刊されている論文を集めた、リーダーズダイジェストのような雑誌」と書かれていた。

当時の文壇のトップスターたちの思想が、これ一冊読むだけで理解できるというので、また当時雑誌としては比較的安い価格の一冊10銭であったため、売り上げは上々だったという。。

ただ売れたというだけではない。「日本大家論集」が大儲けになったのには、とんでもない理由があったのだ。このころはまだ日本に印税という習慣はなかったし、原稿料も新聞雑誌の初出の時に払うだけでよかった。

そんなわけで博文館は著者に一文の金も払うことなく、印刷製本の費用だけでこの本を作ることができた、いわば坊主丸儲けといえる雑誌だった。 この商法はさすがに「博文館でなく悪文館だ」などと世間の非難をあびたが、道義的にはともかく、当時は著作権法どころか著作権の概念すらなかった時代だから作家たちも泣き寝入りするほかなかった。

これ以降、新聞雑誌には「禁無断転載」という但し書きがつくようになった。博文館の「日本大家論集」がその原因だった。

リーダーズダイジェストの創業者デヴィット・ウォレス氏は大変な日本びいきで、米国本社の利益を全て日本支社に投下し、その結果最終的には米国本社さえ経営破たんに至ったから、おそらく「日本大家論集」を手に入れていて、そこからリーダーズダイジェストを作りだしたと考えても不思議ではない。

その意味では米国の社会の仕組みは日本より50年も遅れていたのは間違いないだろう。

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