第5話 sixth sense
そのころ、軍隊本部では。
「司令官。恐れ入ります。またもや、ヤツが来ました。厄介です、というのも、あろうことかヤツは以前の脅し文句通りに、念力を使って門番を気圧したようです。困ったものです。」という内線の声が司令官室に響いていた。声の主は、玄関口の異常を察知して視察に来た士官の一人だった。彼は、「ババアごときに情けない…。」と独り言ちっていた。
ヤツとは、誰か。
司令官は、「通せ。状況が状況だ。何か有力な手がかりがあろう。後のことはワシが責任を持つ。それに、今回は憂慮すべき状況だ。」と通達し、そのいわゆるヤツを通すことを伝えた。
すぐさま司令官室の外から物音がドタドタと聞こえる。またも重そうな何かを引きずっている。何かを伝えようとするたびに、治安を守っている我々に年貢代わりにと何かしら持ってくるのがヤツのシキタリだった。
何か厄介をされるよりもと思った司令官は、ドアに振れられるよりも先に開けてやった。
「ああ、これはこれはマダムイド。本日もご足労いただきありがとうございます。本日は、お足元の悪い中(監視カメラによると、門番が念力か何かは知らないが、とにかく数名倒れていた。その数名が散らかっているなか、通って来たことを皮肉って言っている。)どういったご用件でしょうか?」と司令官はやけに行儀よく言うと、苦虫を噛んだ様な顔で、その女は答えた。
「いやだね。門前払いするのかと思ったがね。そんなにアタイを煙たがっていない証拠かね?まあいいや、こいつは土産だよ。それよりね、やばいモンがこの世界に放たれたみたいね。あんた、対処できるのかい?もしかしたら、この世の終わりカモしんないよ?」とマダムイドは言った。
マダムイドとは、いわゆる、自称『スーパーシャーマンレディ』である。が、しかし、傍からみると、そのうさん臭さのモリモリ具合から、『グレートキ●ガイ妄想ババア』と噂されている。
かつては、事あるごとに用事を口実に指令本部に来ては、「未来が見えたよ!」「まさに!この場に!そうだね、頃合いは、啓蟄。3月5日だね。良心が欠けた冷徹極まりない人間が派遣されてくるよ!」またある時には、「これはまずいね。」「綿貫、4月1日だね。問題のある人間が流れ込んでくるよ!今年は、ココの者は全員厄年かい?」となど訓示を垂れた。
門番が追い払おうとすると、「まあ、偉そうなことをするもんだねえ!アタイがせっかく予知夢を使って誰にもまねできない助言をしてやっているというのに。あんたバチが当たるよ。せいぜい、この一年以内に死なないよう神様に祈るんだね。」と言って脅すのだった。
実際、この地域に新しく派遣される新規採用または中途採用の兵隊は、3月5日と4月1日にあったが。しかし、軍隊を内部破壊するような輩は、その中からは発見されていない。ただ、追い払いに付き合わされた門番は、度々一年以内に不審死を遂げている。といっても、門番の業務は地下労働者の中でも、仕事ができず使えない者がほとんどなので、掃いて捨てるほども代わりはいくらでもいた。
そのような状況を見るに見かねて、司令官室では、本名イズモ・イドコ、通称マダムイドを憂慮すべき事態に遭遇した際は中に通すように決まっていたが、奇しくも門番には通達が回っていなかったか、あるいは通達を聴いても理解できなかったか、門前払いした結果、非科学的な力によって、彼らはねじ伏せられた。
「話せば長くなるから、手短に言うよ。あんたらが今追ってるガキは、自分に降りかかる脅威に対して、反射的に攻撃しとるね。だからよう?そいつの死んだ父親を、囮にしてやれば、不意を衝けるってもんね。ふひょひょひょひょ。」とマダムイドは不気味に笑った。
つまり、こういうことである。
マダムイドは、全てデビットのことについて見通しているのである。
デビットは、光子力バリアを出した時も、飛行物体になった時も、自身に対しての脅威があったからこそ、脊髄反射的に対抗手段に移った。とマダムイドは見ている。
幸いなことに、マダムイドは、その小さな生命体の存在までは感知できなかったが、そこまでを見通していたのである。
そこでマダムイドが編み出した血も凍るほどに冷徹な手段は、憲兵に殺された彼の父親を、ゾンビのように利用して、彼を攻撃させるというものである。
「なかなか、面白いことを思い付きますね。」と司令官は言った。奇しくも、ある年の3月5日、この軍隊基地に派遣されたのは、この司令官であり、また、別のある年の4月1日にこの軍隊基地に派遣されたのは、デビットの父、リチャードだったのである。
マダムイドは、すでに起こっていた人物の派遣を、これから来るものと言う風に予言をし違えていたものの、日付を言い当て、その人間の本性すらも、見抜いていたのである。
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