第4話 Search

物理捜索隊がエネルギーバリアの爆発があったエリアに急行し、様々な電子機器を使用して現場検証を行っている。その場には、リチャードの遺体も転がっていた。


『どうやら、熱線の類の攻撃でもあったようです。が、不思議なことに、内側にいたこの死体の男は、無事ですが、外側にいた俊足の憲兵が、見るも無残な姿になっています。といっても、男は我々の制圧弾によって一発でこと切れたとみられますが。』と物理捜索員がクルーのトップに報告している。


実際に、3Dスキャナーで現場をキャプチャした結果AIがたたき出した結論では、男が憲兵の銃によって殺され、その後エネルギー波が膨張し、銃を撃った憲兵が熱に焼かれて死んでいた。しかし、肝腎の『なぜエネルギー波をともなうバリアを張ることができたのか』という点においては、AIは解明できなかった。


クルーのトップは、『何かが腑に落ちない…。人間に、こんな力が出せるか?』と首をひねっている。


初めはリチャードを追いかけ、俊足の憲兵が先を行き、幸い足の速さが足りなかったために一命をとりとめた曹長は説明した。というのも、現場にて、危険な目にあったが、命からがら爆発から逃れていたのだ。


『我々脳筋の男たちには、さっぱりと物理のことはわかりませんが、とにもかくにも、あの男、リチャードなんちゃらとやらは、私の部下が構内の見回りをしている間に、何か大切な施設内の物を持ち出し、目を見張るような速さで逃げ去ったのは事実であります!』と曹長は説明する。


どうやら、この世界では、憲兵隊よりも、物理における知識や知能が重宝される世界のようだ。兵の曹長のクラスともあろう一丁前の戦士が、警察で言えば鑑識のような立場の人間に、へりくだらなければならない。今の現実世界であれば、このような逆転状況であることのほうが多く見られこともあるのかもしれないが。(たたき上げの刑事が、偉そうに鑑識に言ったり、折角現場調べているのに、土足で踏み込んだりするのは、ドラマのお決まり。特に昼ドラ。)


そのころ、エルとデビットは。


突然の出来事に疲労困憊していたのか、デビットは、エルが軽食の用意のために暫し彼から離れたすきに、緊張が解けたのか気を失うかのように居眠った。


やがて30分が経過し、エルがポーチドエッグと食パンを用意して、デビットの前にやって来た。


『あら、寝ちゃった?お腹空いてんじゃないかと思って、軽く作ってきたけど。』


彼のもとを離れる前、疲れて眠たくトロンとした目をしていた彼が、気付かぬうちに腹の虫を鳴らしていたので、『あ、そうだ。』と言ってエルはその場を離れていたのだ。


まだ起きぬデビット。目の前には、母や父とともに暮らしていたころには一緒に食べていたはずの、質素だが愛情にあふれた朝食が思い出されるワンプレーとがたまたま用意されている。もちろんエルとデビットは赤の他人で、顔見知りですらなかったが、やはりヤブと言えど町医者の娘、家計にはある程度の余裕があるようだ。スラムのような街では、毎日夜になるとけが人が絶えないのだ。


用意された食事からは、ほのかな香りが漂っている。


何やらデビットはその匂いに鼻をクンクンとさせながら、心臓を守る様な膝を抱えた姿勢で小さく唸るような声を出していた。おそらく、何かにうなされているのだろう。


かと思うと、『母さん!父さん!』と叫んで大きく目を開け、右手を虚空に伸ばしその手をぎゅっと握った。しかし、何もつかめなかった。


『あなた気丈にしてたけど、やっぱりなんかあったのね?苦労してんじゃない?』とエルは聴いた。


『ああ…。恥ずかしいところを見せてしまった。母は僕が幼い時に、交通事故で死んだんだ。それに、父は…。グスッ…。さっき…憲兵に殺された…。』涙ながらに彼は語る。


『可哀そうに…。ほら、もっと、泣きな。恥ずかしくなんてないよ。泣けるうちに、枯れるまで涙出しな。そうしたら、全部受け容れられるから。』とエルは寄り添った。


頬を伝って落ちた涙が、ポーチドエッグに降った。後で彼が食べたら、塩の味がするだろう。

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