第3話 Crush Down
三機のスピアイーグルを撃墜したデビットは、攻撃目標を失ったためか、変身が解け、ほとんど生身のまま戦闘場所の真下にある民家の方向へ墜落した。最も危険な状態とみられたのは、合体していたはずの生命体は、またか弱く小さな芋虫のような形状に戻っており、彼の身体から離れていた。
ガッチャーン!という音がして、彼は大量に洗濯物を干していた民家のベランダに背面落下した。古びて雑巾のようなにおいがしていたとはいえ、傷みが激しく、あちこちに虫食いがしていたために、硬く板張りのようだった敷布団がまるでシリコンクッションのように柔らかかった。擦り傷程度をデビットはあちこちに受けたとはいえ、大けがには及ばず、一命をとりとめた。
数分間失神したのち、意識を取り戻したらすぐさま彼は身を起こした。『わあ!サムは!?サム?!』と自身の命よりも大切そうに、飼い犬のサムを探した。
幸い、サムは、デビットの羽織っている特殊な衣服の前掛け部分にちょうど包まれるようにして、抱えられていた。おそらく、生命体が作り出したサム専用の防護服だろう。いままで、このような衣服をデビットは持ったことも着たこともなかった。
『よかったあ…!あ!でも、父さんに託されたあの!生き物が!どこだ!』と言ったところで、その家の住人が現れた。
『ちょっと…。あんたそんなところで何してんのよー。あら、ケガしてるじゃない!丁度良かったわね。ワタシ、たまたま医者の卵なの。手当してあげるわ。』と住人の女は言って、彼にかけよった。確かに、デビットの身体のあちこちにある擦り傷から軽く出血している。
『そんなことより!父さんが託した生き物!あれがどっかいっちゃった!』とデビットは、少年らしく慌てた。頭脳明晰で知的な彼には似合わず、日常を覆す様な出来事を前に、戸惑っているようだ。
『ああ、なんか、でっかい芋虫さん?あの子だったら、私の部屋の窓を割って入って来たわよ!むー!むー!って言ってその子なりに怒ってるみたいだから話してあげてよ!あんたより先客だけど、あんたのほうが面倒みやすそうね。』と女は言った。
デビットが生命体に掛け寄ると、その生き物は、『む~。』と安心したように脱力した声をだした。むーむーと自身で言うので、デビットはその生き物の名前を『ムー』と名付けたのだった。
『痛って!ちょっと、僕よりだいぶ年上なんだからもうちょっと丁寧に手当してよ…。』とデビットが手当てする女に軽率にも小言を言った。どうやら、消毒液が染みたようだ。
『ああ!あたしのことオバサンだと思ってるんでしょ!そんなこと言って、助けてあげてるのよ!あたし、こう見えて15だから!だいぶじゃないわよ!女は怒ったら怖いわよ!』と女は吠えて見せる。
『ああ、悪かったから!強く腕握りすぎ!悪かったよ。』とデビットが困ったように謝ると、気が済んだ女は、一発彼に軽くデコピンをかまし、『よし、終わり。』と言って、今度はデビットが抱きしめて静かに居眠っているサムを撫でた。
『彼なんていうの?男の子でしょう?かわいいわね。』と女が言うと、デビットは、『サムだよ。僕が5歳の誕生日の時に、捨て犬だった彼を拾ったんだ。名前なんていうの?』と聞いた。
『あたしはエル。父と母が町医者だから、小さい時から、ずっと手伝ってるの。っていっても、ヤブだけどね。あ、これは告げ口しちゃだめよ?』と言って彼女は笑って見せた。
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