サナの実家は飲食店を経営していた。和食の店だ。料理人として優秀だった父は、ホテルのレストランの料理長として長年働いていたが、自分の店を持ちたいと考え、独立した。

 最初は評判がよかった。美味しいと話題になり、一躍人気店になった。父は食材にこだわりを持っており、上質の材料を使い、料理を提供していた。ある意味、儲けは度外視で、料理の腕をふるい、お客さんの喜ぶ顔を見ては幸せそうな表情を見せていた。

 料理の味と、店の雰囲気、父の人柄に惹かれたお客がひっきりなしに押し寄せた。大繁盛と言ってもいいほどの賑わいを見せていたが、店にお客が来れば来るほど、赤字になっていった。

 腕のいい料理人が、経営の腕までいいとは限らない。あっという間に借金は膨れ上がった。やがて返済が滞り、銀行の抵当に入っていた店舗兼自宅を守るため、両親は商工ローンに手を出す。商工ローンからの借金で銀行のそれを完済し、店舗兼自宅は守ったものの、それは当然のことながら一時凌ぎに過ぎず、今度は新たに商工ローンに店舗兼自宅を担保に取られた。そして、銀行に比べ、商工ローンの金利は高いため、すぐに返済不能に陥る。

 商工ローンの取り立ては半端じゃなかった。昼夜問わず店に押しかけ、怒鳴り声をあげ、時には店の備品を壊した。その商工ローンはヤクザ、つまりヤマト会のフロント企業だったのだ。

 ミナミを中心にシノギをあげているヤマト会。やがて利息分すら払えなくなったため、両親が必死に守ってきた店と自宅を取られる結果となった。

 どう考えても、法外な利息と、法律違反の取り立てだったため、どこかに相談したり、

訴え出ることはできたかもしれない。しかし、サナの両親はあまりに無知であまりに無力だった。弱者だったのだ。

 ヤマト会は店と家を取り上げただけでは許してくれなかった。サナたちは知人から無償で借りた倉庫を自宅として生活していたが、そこにまでヤマト会が乗り込んできて、利息が膨らんでいるため担保物件だけでは完済には程遠いと言い、サナに売春を強要してきた。

 両親は何とかお金を工面しようとしたが、簡単に用意できる金額ではなく、また、

生命保険もとっくに途中解約して、返済に充てていたため、死んで支払うこともできなかった。

 サナは売春を受け入れた。両親は当然反対したし、ひと回り年下の弟も、姉と離れるのが嫌なのか、泣いて縋ってきた。サナは彼らを振り切るようにして、倉庫を飛び出した。

 だが、虫の知らせだろうか、何となく嫌な予感に襲われたサナは、来た道を引き返した。そして倉庫のドアを開けた瞬間、サナの目に飛び込んできたものは、首を括った三人の姿だった。咄嗟に弟を助け、そして両親を床へ下ろした。

 三人とも命は助かったが、両親は脳に障害が残った。弟は体重が軽かったせいか、若いせいかはわからないが、何の障害も残らなかった。

 両親は三日間入院したが、入院費を払えないことがわかると、病院から追い出され、倉庫へ戻ることになった。

 脳の障害のせいで、父親は歩行が困難になり、母親は言葉が出ないようになった。仕事など見つからない状態だ。弟はまだ小学生。サナは、やはり売春をするしかなかった。

 心配だったが、両親と弟を置いて家を出た。そして、民泊とは名ばかりの売春アパートで客を取り始めたのだ。

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