第30話 オベロンの策略
「嘘だ……!」
俺はソファに座り込んだ。
「俺は人間ですっ……! 生まれたのだってゴパロっていう田舎の村で……。それに……、だって、そんなこと、誰も……、母さんも、じいちゃんも!!」
「おいっ、オベロンっ! お前、ティトにいままで黙ってたのかよっ!?」
ファビオがオベロンの胸ぐらをつかむ。
「黙ってたも何も、ティトとは今日初めて顔を合わせたんだもーん」
オベロンはぱっと姿を消すと、今度はソファの俺の隣に現れた。
「あっ、もちろんティトのことは前から知ってたよ。
でもさ、ティトの母親の養父ってのがすっごい頑固ジジィでさあ、
『こんのイタズラ妖精がっ! うちの孫に手ぇ出したら、お前の目ン玉ほじくり出すぞっ!!』って凄んでくるんだよー。
ああいうオッサンが一番嫌いなんだよねー。血も繋がってない人間のくせにさあ。うちの孫とかワケ解んないし!
まあ、そういう僕も、この100年くらい忘れてたんだよね。人間界に僕の子孫がいるってこと!!」
「……」
――この目の前のつかみどころのない、年齢不詳の不思議な妖精が、俺のひいひいひいじいちゃん……。
だが、瞳の色以外、俺とは何も共通性が見いだせない……。
「ま、立ち話もなんだからさあ、お茶でもしながらお話しよ! 今までの経緯を詳しく説明するからさ! 今後のことも相談しよ!
……あっ、ティト、駄目じゃん。僕からの贈り物そのままにしちゃ。
でも、ちょうどいいや、これ、妖精界で大人気のフレーバーティなんだ。すっごくおいしくて、気分もリラックスするから今いれるねー!」
オベロンが言うと、テーブルに置かれていた葉っぱにくるまれた小さな包みはふわふわと宙を舞い、次の瞬間にはテーブルの上に4客のティーカップが現れた。
なみなみと注がれた紅茶からは、すでに良い香りが漂っている。
――すごい魔法だ。やはり妖精王と呼ばれるだけのことはあるのだろうか!?
「さ、座って、座って! 話せば長くなるんだからー!」
今完全にこの場を支配しているオベロンが、ファビオとオルランドをソファに座らせる。
「事の始まりはさ、魔界の王……、魔王様が代替わりしたことなんだよねー」
俺たちが紅茶を一口飲んだところで、オベロンは話しだした。
なにやら壮大な話になりそうだ……。
だがへらへらしたオベロンの様子からは、まるで深刻味が感じられない。
「魔王様はまだ成体にはなってなくて、幼いせいなのかしらないけど、ほんっとーーーーに横暴な坊やでさ!
代替わりした途端、妖精王の僕と妖精界を冷遇しだしたんだ! まったく魔界の役に立っていないけしからん存在だ、とかなんとか!」
オベロンは悔しげにその場で足を踏み鳴らす。
「……もっともな見解だな」
オルランドが静かに言う。
「魔界のためを思っての行動なら、別に横暴とかじゃないだろ?」
ファビオも同意する。
「は? は? ハァっーー!? これだから何も知らない人間は!!
僕達妖精が、どれだけこの世界の役に立ってるのかしらないのか!?」
「人間にいたずらしたり、ちょっかいかけたり、驚かせたりして困らせているだけだろうが」
ファビオが鼻を鳴らす。
「嘘をついて、人の心を弄んで、引っ掻き回すのも得意だな!」
オルランドの皮肉に、オベロンは悔しげに唇を噛んだ。
「んだよっ、お前たちも魔王様みたいな知った口を!! たしかに僕達はイタズラ好きだけど、いいところだっていっぱいある!!
とーにーかーく、それで僕は思ったわけ。このままじゃ、まずい。
すぐにでも魔王様に取り入らなきゃ!! ってね。でもこの新しい魔王様ってのが、とことん趣味が悪い坊やでさー!
妖精界の綺麗所をこぞって魔界に送り込んだんだっていうのに、全員熨斗つけて送り返してきたんだ! 先代の魔王様は残らず全員囲って、末永く可愛がってくれたっていうのにさ!
それで魔王様の側近にいろいろ聞きだしたら、この魔王様、どうやら人間がタイプらしいっていうじゃないか!! その時急に思い出したんだ! 僕の子孫が人間界にいて、しかも僕と同じ紺色の瞳をもってるってことに!」
オベロンは瞳を輝かせて俺を見た。
「ティト! 君のことだよ。君はまあ、見た目はそんなにパッとしないけど、目だけは僕と同じ紺色の瞳だ。そしてどこからどうみても人間だ!
で、僕は思ったんだ。この僕の子孫を、魔王様と番わせてその子供に魔界を支配させようって!!
そうすれば、妖精界は永遠に安泰、それどころか、妖精王の僕は、魔王の親戚としてますます隆盛を極めることができるっ!」
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