第29話 正体



 その時、目を閉じていた俺の耳元で、くすくす笑いがした。


 最初はすごく小さな声だったのに、それはどんどんどんどん大きくなっていって……!!



「アーッ、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、イーヒッヒッヒッヒッヒッ、ウーッ、ヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ!!!!」



 ――このびっくりするような引き笑いはっ!?


 目を開けると、部屋の中には、やはりさきほど消えたはずのオベロンが再び姿を現していた。




「こんなところで暗黒魔法なんて、穏やかじゃないよー! あっ、でも恥ずかしい記憶もろとも全部吹き飛ばしたかったって感じ!?

あー、おかし、おかし!! ファ――――ッ! こんな愉快痛快、最高なことってそうそうない!!」


 オベロンは目に涙をためてヒイヒイ言っている。



「あっ、出たなっ、こんの嘘つき妖精っ!」


「妖精王・オベロンっ、今度という今度は許しはしない!!」


 ファビオとオルランドの声に、俺はぎょっとした。



 ――まさか、この二人とも知り合いなのか!?

 しかも、妖精王って、一体……。



「あー笑える笑える、国一番の男前二人がかたなしだね!

お互い醜く足を引っ張り合っちゃって、かっこ悪いったらこの上なし!

そんでもってそんでもって……、やーいやーい、振られてやんのっ、プププっ!!」


 オベロンはいたずらっ子みたいな表情で、その両手を口元にあてる。



「死にたいのか、妖精……」


 再びその手に聖剣を呼び寄せるファビオ。



「そのムカつくおしゃべりをいますぐ止めてやる!!」


 オルランドも右手のひらのうえに、闇魔法の力をため始める。



「あーやだやだ。振られ男が揃ってみっともない!

だからおごり高ぶった男は嫌いなんだよ! この際さあ、人のせいになんかせずに、はっきり認めるべきだよー!

『自分たちに魅力がなかったからティトに振られたんだ』ってね!!」


 オベロンはやれやれと肩をすくめる。



「お前が言ったんだろーがっ! 妖精は昔から詩を贈って愛を伝えるもんだって!

それから、詩の字体は、流麗体の文字が今一番アツいって!!」


 ファビオがオベロンに食って掛かる。


「僕なんにも間違ったこと言ってないもんねー。妖精は詩を送り合うのが今でも大好きだし、

流麗体の文字がかっこいいっていうのも本当だもーん!」



「私に言った『愛の囁きオルゴールとアイシテル目覚ましを贈って、それを相手が喜んだらプロポーズ了承のしるし』っていうのも、嘘か!?

このペテン師めっ!」


 オルランドがオベロンに向かって、闇魔法を発動させる。


 だが、オベロンの周りの薄緑色のバリアに阻まれてしまった。



「あー、それはちょっと脚色あったかな? へへっ、でもその贈り物自体が、ライバルの妨害でティトに届いてないんだもん。僕のせいじゃないよねー!

それにさ、いくらティトが妖精王・オベロン様の末裔だからって、妖精の習性がそのままティトに当てはまるとも限らないんじゃない? 僕の言うことそのまままるっと信じ込んじゃってさ、そういうとこ、人間って浅はかだよねー」




 ――は????



「ちょ、ちょっと、待ってくださいっ!!」


 それまで黙っていた俺は、大声で言った。



「なあに、ティト?」


 オベロンがその紺色の瞳を俺に向ける。



「ちょっと、話が、全然、見えないのですが!! とくに、あなたが「妖精王」というところと、俺が「オベロン様の末裔」ってところが!!!!」



「「――は????」」


 ファビオとオルランドがびっくりした表情で俺を見る。



「あれ? いままでの流れでだいたいわからなかった? 相変わらず鈍いねー、ティト!

だからさ、僕は偉大なる「妖精王・オベロン」で、君はその末裔。だから君はそんな色の瞳をしてるんだよ。

ティト、君は僕の5代後の子孫……、つまり僕は、君のひいひいひいおじいちゃん、なんだよ!!」





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