第13話 ペナルティ



「ティト!!」


 叫ぶファビオの視界から遮るように、俺は黒いローブをまとったオルランドに抱き込まれた。



「ティトは優しいね。君にあんな狼藉を働いたファビオを許してあげるの?」


「だってあれは……!」


「あれは?」


 くいと顎を指で持ち上げられる。


 目の前に、闇色の静かな瞳があった。



「……ファビオ様は、悪くありません。さきに俺が、ファビオ様に対して失礼なことを……」



「ファビオにキスされて、ティトは嫌じゃなかった?」


 優しい声で、オルランドは俺に語りかける。



 俺は首を振った。


「嫌なわけありません! だって、ファビオ様は……」


「そっか。じゃあ、私とも、キスできるよね? ティト」


「え……?」



 すぐには何を言われたか理解できなかった。


 それくらい、俺にとっては想像もつかない言葉だったんだ。

 


 ――なんで? 俺が!? オルランド様と!?




「ははっ、そんなに驚いた顔しないで。まさか、そこまで意識されてなかったとは、さすがにちょっと傷つくな……」


 オルランドの指が、俺の頬を撫でる。



「え? でも……、だって、なんで、俺?」


「ティトはさっき、ファビオとキス、したよね? だから、私の口づけも受けてほしいな」


 サラリと髪を撫でられると、オルランドの凄絶な色気に、ドキリとさせられる。



「あの、オルランドさ、ま、俺、は……」


 ドン、と壁側に追い詰められた。



 オルランドは魔剣『イラーリア』を下げていた俺の腰のベルトを器用に外すと、『イラーリア』をファビオに向かって放った。


「このお嬢さんを頼むよ。……レディには少し刺激が強いだろうからね」


「……テメエっ、オルランドっ!!」


 『イラーリア』を手にしたファビオは、オルランドを睨みつける。


「おいおい、ファビオ。そんな顔するなよ。これはペナルティの一つだろう? 二人で話し合って決めたことじゃないか。せいぜいそこで、自分の犯した罪の深さを自覚するがいい」



 オルランドは俺に向き直った。


「ティト、私のことは嫌い?」


「そんなことっ、あるわけ、ないです……」


 じっと見つめられることに耐えきれず、俺は思わず目を伏せた。



「じゃあ、……好き?」


 また顎を持ち上げられる。


 漆黒の瞳と、目が合う。



「はい……。もちろんです」


「じゃあ、言って。私のことが好きだと」



 まるで魔法にかけられているみたいだった。


 俺は完全に、オルランドに飲まれていた。



「俺は、オルランド様のことが、好き、です」


「私も好きだよ。ティト」




 唇が、重なった。





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