第8話 ファンクラブと親衛隊

「ギャーーーーーー!!!! ファビオさまあああああっ!!!! 今日も麗し過ぎて死ぬっ!!!!」



「オルランド様ぁ!! こっち向いてー! キャーーーッ!! 素敵素敵素敵素敵!!!!

結婚してーーっ!!!!」




 翌朝、宿屋を一歩出たところで、いつものように若い女の子たちの絶叫があたりに響き渡った。





 俺から見て右側にいるのが、ファビオのファンクラブ。左側がオルランドの親衛隊の皆様だ。


 その一団を束ねているのは、もちろん現役の魔法学園の生徒たち。彼女たちは、わざわざ学園を休んでここまで追っかけてきているらしい。その執念は相変わらず凄まじく、どこからどう調べたのか、俺たちがこの町についた次の日の朝には、彼女たちは宿屋の前で整列して、ファビオとオルランドを出待ちしていた。

 しかも、近隣の町にも二人の噂は広がっているようで、日に日にその人だかりの数は増えていくから恐ろしい。このままではこのあたりの女の子たちはすべてこの町に集結してしまうのではないだろうか?



「みんなー、ありがとう。今日も頑張ってくるね!」


 ファビオが軽く手を振ると、また一同から悲鳴が上がる。



「頑張ってー! ファビオ様っ! 早くラスボス倒して学園に戻ってきてー!」


 彼女たちの願いは切実だ。このままずっとここにいては、出席日数が危ない。




「オルランド様っ! 応援してまーす!」


 オルランドの親衛隊は、キャピキャピした可愛い印象のファビオのファンクラブのメンバーに比べて、落ち着いた美女が多い。


「ありがとう。でもみんな、ここは寒いから早くお家に戻ったほうがいいよ」


 オルランドが小首をかしげて微笑むと、彼女たちからは「いやーん」とか、「やだー」「大好きー」とか、よくわからない声がつぎつぎに上がる。




 だが、二人に続いて俺がこそこそとその後に続くと、彼女たちの表情は一変する。




「まだいたの? 早くオルランド様から離れなさいよっ!」


「同じ空気を吸って私たちのファビオ様を穢さないでっ!!」


「ティト! アンタの存在自体が邪魔だってのがまだわかんないの?」


「ウザイのよっ! アンタなんか消えちゃえ!」


「アンタは学園の掃除でもしてればいいのよ! この身の程知らず!!」



 先程の黄色い歓声からは程遠い、俺へのヘイトコールが一斉に始まる。

 今までファビオとオルランドが何度たしなめても、彼女たちの俺への憎悪は決して変わることはなかった。



「ティト、気にしちゃだめだよ。ファビオのファンは過激なのが多いから」


 そう言ってオルランドが俺の耳を塞いだ。


「んだよっ、お前の親衛隊のほうが絶対陰湿だろ!? この前、呪いの魔法の手紙とか送ってきたじゃねーかっ!」


「あれは、私の親衛隊の仕業にみせかけた、お前のファンの犯行に決まっている」


「んだとっ!? オルランドっ、どんな証拠があって、この……」


「いいんですっ! 俺っ、慣れてますから! それに皆さんの気持ちもよくわかります。俺みたいな、なんの取り柄もないやつがお二人に選ばれちゃったら、誰だってすごく悔しくて、嫌味の一つも言いたくなると思います! だから俺は、全然、大丈夫っ!!」



「「ティト!!」」


 俺の言葉に、なぜか感極まった表情の二人。



「このダンジョンを攻略してすべてが終わったら、あんなこと誰にも言わせないように俺が全部ちゃんとするからな!」


「くっ……、無理して笑顔を作って……。こんなティトの清らかな美しさを理解できないあの子達のほうが、よほど残念な子たちだよ……。でも許してくれ。どこかでガス抜きさせないと、ティトに直接害を及ぼされては困るからね。ティト、少しの間だけ、我慢だよ」


 捨てられた子犬でも見るような哀れみの表情で、二人して俺の頭を撫でてくる。

 当然、後方からは大ブーイングの嵐!!



「ファビオ様ーっ、いやあああああ!!!!」


「オルランド様ーっ! 早く目を覚ましてー!!」



「ティト、駄目、絶対!」


「ダメ、ゼッターイ!!」



 最後はシュプレヒコールみたいになって、一同が団結して盛り上がる。



「……」



「さ、急ぐぞ!」


「振り返っちゃ駄目だよ、ティト」



 俺たちは足早に、ダンジョンへと向かう。





 ――すでにこの町の風物詩となっている、朝の光景であった……。



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