第20話 解放奴隷達の行く先
夜が明け、これから自由に生きていくことを選んだ者達が、出発する時間が来た。
まず、これから好きに生きることを選んだ800人近い集団が、数十台の馬車と数十頭の馬に食料を積んで村を出ていく。
その中には、軍隊経験のある者や元冒険者も100人近くいて、俺が配った剣や槍や弓を持ち、周囲を警戒しながら進んでいく。
目指すのはネグロの村から一番近いモンデールの街だ。といっても歩いて5日はかかる。
彼らに続いて、俺達も出発することにした。俺が率いているのは、ララザニアとベルドボルグ、昨日俺の奴隷になった150人程と、ベルドボルグに操られている奴隷商達だ。俺の奴隷になることを選んだのは、ほとんどが元娼婦だったらしく、皆、俺の女になりたがったが、こんなに大勢の面倒を見切れないので拒否しておいた。
馬車や荷馬を連ねた1000人近い集団の移動が人目に付かないわけがない。俺達の移動は多くの者に目撃され、その話は、口から口へと伝えられて、すぐに近隣の村や街に知れ渡った。
街のいろいろな商人や組織から、ネグロの奴隷が全員逃げ出したと報告を受けたモンデールの街の代官のチェックラットは、街に駐屯している騎士団に出動を依頼し、騎士団は3小隊約50名を派遣した。
解放奴隷達と騎士団が遭遇したのは、出発してから3日目の昼頃だった。
「止まれ。お前たちはネグロの逃亡奴隷だろう。このままネグロに戻れ、さもないと切り捨てる」
金属のハーフプレートアーマーで武装した騎士達の先頭に立ち、肩に階級章を付けた指揮官らしき男が、抜身の剣を手に、解放奴隷達の前に立ちはだかった。
一方、立ち止まった集団の中から、武装した男たちが前に出て
「俺達は、奴隷じゃない。見ろ、奴隷の首輪をしていないだろう」と、自分の首を指し示す。
「首輪なんか関係ない。お前たちがネグロから来たという多くの証人がいる。逃亡奴隷であることは明白である。大人しくネグロに戻れ」と、指揮官が怒鳴り返した。
この言葉と同時に騎士たち全員が、腰の剣を抜き放つ。
それに対抗して、武装している解放奴隷達も一斉に剣を抜き放った。
「「「何だ、前が止まったぞ」」」。
皆が騒ぎ出したので、俺は何が起きたのか確かめるために隊列の先頭に向かって走りだした。
解放奴隷達の先頭に着くと、戦闘職の解放奴隷達と騎士達が、抜身の剣を手にしながら睨み合っていた。
精密鑑定で、その騎士達を見ると、
グレイバーグ騎士団:モンデール配属
種族:人間
状態:ヴァンパイアの眷属
となっていた。
俺の横に来たベルドボルグに、
『こいつら、人間のくせに、ヴァンパイアの眷属となっているぞ。どうすればいい?』と念話で聞くと、
『ヴァンパイアになりかけの存在ですな。滅ぼすしかありません。超重力100倍をお使いください』と念話を送ってくる。
少し前から、皇帝像の右腕の重力操作が使えるようになっており、 『超重力』は、重力操作で出来ることの一つだ。
俺が「超重力100倍」と呟くと、その途端に50人の騎士達は、糸の切れた操り人形のように倒れた。というか、圧し潰されるように膝から崩れ落ちたと言った方が正しいか?
何が起きたのか分からなかったので、「どうなった?」とベルドボルグに聞くと、
『超重力の効果で100倍の重力がかかりました』という答えが返って来た。
『100倍の重力?ということは70キロの体重なら、7000キロの体重になったわけか。それは、立っていられるわけがないな。って、いうか、大丈夫か?』
「瞬時に体中の骨が粉砕され、細胞が破壊されますから、動ける者はいないでしょう。しかし、ヴァンパイアになりかけとはいえ、放っておくのは危険ですから、吾輩が止めをさしてまいりましょう」
ベルドボルグは、恐ろしいことをサラッと言うと、倒れた騎士達に近付いて、死体に掌を押し付けた。すると、押しつぶされた死体が、中身が吸い出された様に、人型の皮の袋になっていった。
残された皮袋は、見るのもおぞましいので、俺はそれらの死体をすべて異次元収納に入れていった。
こうして、モンデールの街の近郊で行われたヴァンパイア勢力との初戦は、俺達の圧倒的な勝利で終わったが、これからどうしたものだろう?
俺はベルドボルグに念話で、
『モンデール街はヴァンパイアに支配されているのか?街に潜入して、調べてくれ。それと、街の主だった奴らを操ることはできるか?』
『ジェノサイドスライムにとっては、簡単なことですぞ』
『それなら頼む』
『了解いたしました』
100人いるベルドボルグの半数が街に向かって駆け出して行く。
『暫く、ここで休憩するか。ベルドボルグ、周囲の警戒を頼む』
『はい、残りの50体の分身で警戒しておりますが、さらに増やしますか?』
『いや、それだけいればいいだろう』
その後、街からは、騎士団も冒険者も派遣されてこなかった。
半日もすると、
『街の代官と執政官たち騎士団の全員、衛兵隊の幹部、冒険者ギルドのギルドマスターと幹部職員が、いずれもヴァンパイアの眷属になっておったので、全て殺して吸収し、吾輩の分身が成り代わり、この街は支配しましたぞ』とベルドボルグは、俺が思っていた以上のことをしていた。
『そうか、ご苦労だった』
『このまま、街に入っても問題ないな』
『衛兵隊を掌握しておりますので問題はありませんぞ』
『では、出発するか。ベルドボルグ、代官に街の入口まで迎えに来てもらってくれ』
そこまで仕込みをして、俺達は再び出発した。
俺達は、次の日にはモンデールの街に無事に入ることが出来た。
800人近い解放奴隷は、いったん代官が預かり、代官屋敷、騎士団の訓練所、衛兵の訓練所などに収容された。
代官のチェックラットは、解放奴隷のうち腕の立つ20名を街の衛兵や警備兵として雇い入れ、5名の女や子供を代官屋敷の雑用係として雇い入れた。
騎士団も先ほどの戦いで3小隊が無くなっていたので、その補充として30名を傭兵として雇い入れた。
こうして、解放奴隷の50名程の落ち着き先が決まったが、まだ750名弱は、身の振り方が決まっていない。
しかし、解放奴隷達には、すでに支度金として1人につき金貨30枚を渡してあるので、この街で留まって生計を立てるなり、他の街へ移動するなり、好きにしろと言って解散させた。
引き取り手の無かった解放奴隷達は、俺から渡された資金を元手にして小商いを始めたり、冒険者になったり、街で仕事を見つけたりして、新しい暮らしを始めようとしていた。
また、誘拐されて奴隷にされていた者達は、直ぐに自分の国を目指して旅だった。それ以外にも、かなり多くの者が、隣の街やさらに遠くの街や村を目指して旅立っていった。
残ったのは、150人程もいる奴隷のままでいることを希望した者達だ。
彼らの多くは元娼婦で、その代表になったキャサリンという金髪の美女が、
「娼館をつくっていただけたら、そこで働きますよ」
と言うので、空家をいくつか借り上げて、150人程を押し込んだ。
その後、売りに出ていた大きな商人の家を買い上げ、大工を雇って娼館に増改築し、娼館の経営はキャサリン達に丸投げした。
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