第19話 奴隷市の村ネグロの解放
「さて、この村を掃除するか」と俺が言うと、
「私にお任せください」とベルドボルグ。
「奴隷と奴隷商は殺すなよ」と念を押す。
ベルドボルグの体から黒い塊が分裂し、それがさらに分裂し、数十のジェノサイドスライムとなって食堂から滑るように出て行った。
俺は食堂に居た盗賊達の死体を異次元収納に入れていく。
厨房にいたコックや配膳係のメイドは、ガクガク震えながら、腰を抜かして地べたにへたり込んでいる。
俺は、テーブルの上の物を全部、異次元収納に入れると、怯えているシェフに新しい料理を注文した。
血の雨が降っても気にもせずに、ご馳走を食べ続けているララザニアに憑依されたリーザは置いておいて、ベルドボルグの本体に聞いた。
「村の様子はどうだ?」
「分身を100体ほど放ちましたので、ほどなく制圧は終わるでしょう」
暫くしてから、俺は食堂を出て村を見回し、精密鑑定の結果を見る。
滅亡した奴隷市ネグロ村、奴隷938人、奴隷商24人、使用人3人。
あれだけいた奴隷商の手先がいなくなった。使用人3人というのは、この食堂に居るコックとメイドのことだろう。
しかし、奴隷が938人って、ひょっとして、その面倒は俺がみないといけないのか?面倒なことになった。
「奴隷はどういう状態だ?」とベルドボルグに聞く。
「奴隷商人の建物ごとに檻に入れられています」
「奴隷商を操れるか?」
「奴隷商の体内に入って、脳を操ることが出来ます」
「それなら、奴隷商を全員操ってくれ。そして、奴隷たちを解放して、広場に集めろ」
暫くすると、
「奴隷契約を解除した元奴隷達を広場に集めました」とベルドボルグ。
「みんな集まったか?よし、行こう」
俺は村の広場に出て、1000人近くいる解放された奴隷達の前に立った。
奴隷たちは、100人程の分裂したベルドボルグに囲まれて、気味悪そうにしながら身を寄せ合っている。
「皆、聞いてくれ」
俺が話し始めると、ざわざわとしていた元奴隷たちが俺の方を向く。
「あんたたちは、もう解放された。つまり、奴隷ではなくなった。これからは、生きたいように生きてくれ。といっても、先立つものが必要だろう。後で、奴隷商が貯えていたお金を配る。食料も配るし、奴隷商の用心棒たちが持っていた武器も配る。だから、それらを持って、行きたいところへ行ってくれ」
俺が話し終えると、ある男が皆の前に進み出た。
「あなたは誰だ?なぜ、俺達を解放した。何が目的だ?」と聞いてくる。
「目的はない」と俺が答えると、元奴隷たちは、ざわざわと互いに話し始めた。
「奴隷に戻してほしいわ」と、誰かが声を上げる。
「このままこの村を出たら、逃亡奴隷として殺されます」
「そうよ」
「そうよ」
女の元奴隷たちが口々に叫ぶ。
俺は、予想外の展開に少し焦った。そこで少し考えて、
「よし、お前たちが何をしたいのか知りたい。奴隷に戻りたい者は右側に集まれ。これからは好きに生きたいという者は左側に集まれ」
俺の指示に従って、元奴隷たちは2つのグループに分かれた。
これからは自由に生きていきたいという者の数が圧倒的に多く800人近く居た。
しかし、奴隷に戻りたいというグループもかなり居て150人位もいた。
好きに生きたいというグループの中から、背が高く体格のよい男が出てきて、
「金と武器を配ってくれるんだろう。俺達はそれで文句はない」
「そうだ」
「そうだ」
といった声が、そのグループから上がる。
「よし、これから用意するから、いったん、どこかで待っていてくれ。その前に、あんた達の代表を何人か決めてくれ。俺は、その代表達と話をしたい」
そう伝えると、好きに生きたいグループでは、いくつかの集団に分かれて話し合いが始まった。思ったよりもスムーズに、話し合いが行われているようだ。
次に俺は、奴隷に戻りたいグループに声を掛けた。
「奴隷に戻りたいなら戻すが、持ち主は奴隷商でいいのか?」と聞くと、金髪の美しい女性が進み出て、
「私たちがこうなった責任は、勝手に奴隷契約を解除させたあなたにあるわよ。だから当然、私たちの新しい持ち主には、あなたがなるべきです」
と声を上げた。彼女の後方には、よく似た雰囲気を持つ女達が控えている。全員、娼婦っぽい。
「俺でいいのか?」
「当然よ。その代わり、私たちの生活の面倒を見て下さるわよね」
これは、押しかけ奴隷とでもいうべきか?
「分かった。努力しよう」
こうして、元奴隷達を2つのグループに分けた後、
「ベルドボルグ、分身を使って金と食料を食堂に集めてくれ。ララザニアは、そうだな、待機だ」
暫く待っていると、この村に蓄えられていた財産と食料が、ベルドボルグの分身達によって食堂に運び込まれた。
金貨が入った袋が、食堂の中央の大テーブルの脇に山積みにされ、食糧は壁の周囲に積まれたが、すべては運び込めないというので、いったん運搬を止めさせた。
その後、大テーブルの上に金貨を30枚ずつ柱状に積んで、1000本の金貨の柱をつくった。これでテーブルの上に、3万枚の金貨があることが分かる。テーブルの脇には、まだ金貨が入っている袋が幾つか残っている。
食糧を確かめてみると、大量の干し肉とパン、小麦粉と豆類、芋類等があった。
俺は食堂の前にテーブルを置いて、その前に好きに生きることを選んだ元奴隷たちを並ばせた。
そして、1人ひとりに、金貨30枚、一塊の干し肉、パン2つを配っていった。配っているのは100人もいるベルドボルグの分身達だ。
これから好きに生きたいというグループからは、代表者が30人程選ばれていた。
その代表者たちに、小麦粉や豆類、芋類の入った袋を引き渡し、護衛たちが持っていた予備の武器や鎧も渡す。村には、数十台の馬車や数十頭の馬もいたので、それらに荷物を積み込ませ、出発の準備をさせた。
その間に、奴隷に戻りたい者達には、改めて、俺との間に奴隷契約を結んでいった。これは、ベルドボルグに操られた奴隷商達にやらせた。
翌朝には出発することにして、俺の奴隷になった者達の為に、十数頭の馬と4台の馬車を確保した。
「村の防衛は、ベルドボルグに任せておいてもよいか?」と聞くと。
「お任せ下され」とベルドボルグ。
その夜、奴隷契約をした女達の代表者からサービスさせてくれと申し出があったが、深い関係を持ちたくなかったので断った。
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