第18話 魔物からの依頼
「人間の世界の利益?何故、魔物が人間の利益まで考えるんだ?」
「かなり前のことだが、人間の世界を征服すると言ってアウトワールドから出て行ったヴァンパイアがいた。そいつは正体を隠したまま、人間の世界の半分以上を支配してしまっているそうだ」
「ヴァンパイアが正体を隠したまま、人間の世界を征服?人間は気付いていないのか?」
「気付いていないようだ。気付いた奴はすぐ殺されているようだしな」
「俺に、そんなことを教えてもいいのか?」
「問題ない。依頼したいのは、そのヴァンパイアの討伐だからな」
「ヴァンパイアの討伐?人間のギルドからの依頼なら分かるが、何故、あんた達が、そんな依頼を出すんだ?ヴァンパイアは、あんた達の仲間だろう?」
「このアウトワールドは、我々魔物が人間に干渉されないように、遥かな昔に神々が創ったとされている。だから、我々は、出来るだけ人間の世界への干渉を避け、このアウトワールドから出ないという戒律を守ってきた。それを、ヴァンパイアは破った」
「それは、あんた達の問題だろう?俺に討伐依頼を出すのは、お門違いだ」
「そのヴァンパイアを放っておくと、全ての人間は、ヴァンパイアの家畜にされてしまうぞ。ヴァンパイアにとっては、人間は血を吸うための無力な家畜に過ぎないからな」
「人間にもヴァンパイアを倒せる奴くらいいるだろう。よく知らないが、ヴァンパイア・ハンターとか勇者とか?」
「ヴァンパイア・ハンター?勇者?そんなものは聞いたことが無い」
「そうなのか?しかし、何故、あんたがヴァンパイアの討伐を望むんだ?」
「魔物は人間の世界に干渉しないという戒律を守る為だ」
「それなら、魔物に依頼すればいいだろう?」
アウトワールドのギルマスは、暫らく考え込んでから、
「仕方がない、本音を語ろう。ヴァンパイアは神格スキルを持っておる。だから、神格スキルを持たない我々では手が出せない。そこに、神の力を持ったお前さんが現れた。まるで、神々から遣わされたように。これが、神の意思だと思わない訳が無かろう」
「う~ん、言ってることがよく分からないが、ヴァンパイアが人間の世界を支配してしまうのは具合が悪い。あんたの依頼を受ける気は無いが、そのヴァンパイアは討伐するよ」
「有難い。それなら依頼とは関係なく、あんたへの支援として金貨1千枚を贈ろう」
と言いながら、大きな皮袋を幾つか俺の足元に放り出した。
その途端に、俺達の足元に大きな魔法陣が現れて光ったと思ったら、俺達は森の中にいた。
横には、ララザニアとベルドボルグがいる。
俺は周囲を確認しながら、足元に落ちていた皮袋を異次元収納に入れておいた。
「また、森の中か?ここはどこだ?」
誰に聞くともなく声を上げると、ベルドボルグが腕を上げてある方向を指した。
「この方向から人間の臭いがします」
「人間の臭い。アウトワールドから出たということか?ここは、まだダンジョンの中なのか?人間がいるなら、とりあえずそこへ行ってみよう」
そんなことを言いながら歩き始めると、暫くすると、木で造られた壁が見えてきた。
壁の規模から、かなり大きな村という感じだ。
門は閉じられており、その前に武装をした厳つい男たちが5~6人たむろしている。
俺達が近づいて行くと、男達は明らかに警戒した態度でこちらを向いる。
俺は精密鑑定の魔法陣をつくって作動させた。
その精密鑑定に、こいつらの正体が表示される。
全員、盗賊であり、暗殺者であり、犯罪者であり、そして奴隷商の護衛だった。
そして、こいつらが守っている村はネグロといい、奴隷商達が金を出し合ってつくった村だ。この村では毎月、奴隷市が開かれ、毎回、約1000人程の奴隷が売り買いされる。そして、ここには奴隷以外に、奴隷商と使用人、護衛の傭兵や冒険者、闇ギルドの犯罪者や暗殺者など、合わせて300人近い武装集団がいる。しかも、ここはダンジョンの外のようだ。ここまで分かるなんて、精密鑑定、優秀だな。
「ベルドボルグ、悪い奴等の根城に来てしまったぞ」
「うむ、吾輩は人間の臭いがすると言っただけですぞ。いくら吾輩でも、悪者の臭いまでは分かりませんぞ」と、うそぶくベルドボルグ。
俺達が、そんな呑気な言い合いをしている間に、門の前に居た男達のうちの2人が近づいて来て、
「お前たちは何者だ?」と凄んできた。
俺はそれに答えずに、
「ここは、何処だ?」と、逆に質問を返した。実は、分かっているけどね。
「何だと?」と一人が怒ったような声を上げるが、もう一人の男がそれを制して
「道に迷ったのか?」と聞いてくる。
こちらの男は話が出来そうなので
「迷った訳じゃないが、この男に案内させたらここに連れて来られただけだ」とベルドボルグを指さしながら俺が答える。
「そうか、その男の案内か?なら、誰かの身内かもしれないな。とりあえず村に入るか?」と誘ってくる。
「どうするかな」とあいまいに答えると、
「ちょっとぐらい寄って行きなよ。お仲間への挨拶もあるだろうし」と、優し気な声を出す盗賊。
「そこまで言われたんじゃ、ちょっと寄ってみるか」と、俺達は、誘われるままに門の中へと入っていく。
俺達には、身体強化、身体硬化、完全異常耐性、毒耐性、毒分解、睡眠耐性、怪力、頑強、超回復、超反応、物理攻撃無効、魔法攻撃無効の魔法陣を、常時貼り付けてある。
「腹が減っていないか?美味い食堂を紹介するぞ」と先ほどの男が先導する。
後からついてくる男達は、俺達から見えないと安心して、意味ありげな目配せを交わしている。
俺達は男に案内されて、門の近くに設けられている食堂に入った。
「さっ、そこに座ってくれ」と、ニコニコ笑いながら俺達をもてなす男。
テーブルには、次々と料理と酒が運ばれてきた。
「ここは俺の奢りだ。遠慮なくやってくれ。まずは、乾杯しようじゃないか」と、男は率先して、酒が並々と注がれた盃を持ち上げ、グイと呷った。
それにならって、俺達も酒を飲みほした。
『毒を完全分解しました』と、脳内にメッセージが流れた。
俺とララザニアは、毒耐性と毒分解の魔法陣の働きで、いくら毒入りの酒を飲んでも平気だし、毒入りの料理を食べても平気だ。ポイズンスライムを吸収しているベルドボルグには、毒は御馳走でしかない。
出された毒入りの酒を飲み干した俺は、
「ご馳走になったな。だが俺の酒に毒が入っているのはどういうわけだ」
と言いながら、少し大きくしただけの虚空拳で、隣で飲んでいた男の頭を鷲掴みにして押さえ、俺の前に置かれていた酒を無理やりに飲ませた。
「なっ」
ガブ、ガフ、ゴフ、ゴブブブ。
男は抵抗しようとしたが、それより早く口から酒を流し込まれたので、たちまち喉を搔きむしって苦しみ始め、泡を吹いて倒れた。
ガタン、ガタン、ガタン。
俺達の周辺で席についていた男たちが椅子を倒して立ち上がる。
「「「てめえ、何をしやがる」」」
男達が剣を抜きながら喚いたが、ベルドボルグが伸ばしたスライムの触手で首を斬り飛ばされた。
食卓やご馳走の上に血の雨が降り、それを合図にしたかのように、俺は虚空斬撃で、ベルドボルグは何本にも分裂した触手を伸ばして、その場にいた盗賊どもを皆殺しにした。
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