第17話 アウトワールドギルド

「ダンジョンの中にもギルドがあるのか?」

俺達は首を傾げながらも、ギルドに行ってみることにした。

ギルドのドアを開けると左手にはバー、真っ直ぐ奥にカウンターというギルドお馴染みの造りになっていた。

ただ違っていたのは、バーに座っているのは、柄の悪そうな冒険者達ではなくて、柄の悪そうな魔物達だった。

『柄の悪そうな魔物って何なんだ?』

自分の感想に自分で突っ込みつつ、俺たちはギルドの奥のカウンターに向かう。


「おい、人間が入って来たぞ」

バーの魔物達が大きな声で囁く。

大きな声で?それ、囁きではなくね?


「お前はバカか?アイツらは人間じゃね〜ぞ」

「確かに一人はスライムだ」

「もう一人は何だ?人造人間かあれは?いろんなものの寄せ集めじゃね〜か?」

「ゴーレムより酷いな」

寄せ集め?それって俺のこと?酷い言われようだなと思っていると、


「あの女は霊魂か?」

「いや、悪霊だろう?」

ララザニアさんは、悪霊扱いだ。


そうこうしているうちにカウンターに着いた俺達。

「今日はどんなご用ですか?」

と受付嬢。美人だか瞳が赤い、背中にコウモリのような翼が生えている。悪魔だろうか?

「ここはギルドか?」と俺が聞く。

「アウトワールドギルドです。アウトワールドへは、初めてですか?」

「アウトワールドって何だ?」

「あら、あなた達は迷い込んだようですね」

「迷い込んだって?」

「ごくたまに人間が私たちの世界に迷い込むんですよ。でも、ここは魔物の世界。迷い込んだ人間は、すぐに食べられちゃいます。でも・・」

と、受付嬢は俺たちをじーと見て、

「そっちはスライムだし、あなたは何?新種のゴーレム?人造人間?改造人間?う〜ん、どれも違う。何なの?それとそこの人間の女の中にいるのは何?悪霊?幽霊?う〜ん、どれでもない。まっ、人間じゃないからいいわ。それで新顔さん、冒険者登録するの?」

「冒険者登録?出来るのか?登録したらどうなる?」

「登録すれば、ギルドの依頼で仕事が出来ますよ。依頼で多いのは、人間の討伐ですね。魔法使いを攫ってくるのも人気がありますよ。生きてる魔法使いは、いい素材になりますからね。それとも血を集めます~?ヴァンパイアたちからの依頼がたくさんありますよ」

聞いていると頭が痛なってきた。


そんな俺達が、後ろから声をかけられた。お決まりの絡まれイベントだ。

「おい、お前達、いい獲物を連れているじゃねえか。その獲物を置いていけ」

と、大きな魔物がリーザの身体に腕を伸ばそうとする。

ベルドボルグが細胞膜のようなものを広げてそれを防いだので、その隙に、俺が虚空拳で魔物を掴み上げた。3メートルもある岩の手に空中で拘束されて、その魔物は焦る。

俺はその魔物を、そのまま異次元に収納した。

「おい、あいつは何処へ行った?」

仲間の魔物が騒ぐ。

俺は、それを無視して、仲間の魔物も次々と鷲掴みにしては、異次元に収納していった。

受付嬢は青くなって、

「彼らは実力のあるAクラスのパーティーですよ。それをあっさりと。殺したんですか?」と聞いてきた。

「まだ死んじゃいない。だが、今閉じ込めたところから生きて出ることは出来ない」と俺は答えた。

「封印したのですね」

「ちょっと違うが、似たようなものかな」

「しかし、困りました」と受付嬢が思案顔になる。

「何が困るんだ?」

「あのパーティーが受けていた依頼が達成できなくなります。代わりにあなた方が依頼を受けて下さい」

「バカを言うな。絡まれたから、降りかかる火の粉を払っただけだ。なんであんな奴らの尻拭いをしなくちゃならない」と突っぱねると、

「とにかく、ギルドマスターに会って下さい」

受付嬢は踵を返して、カウンターの後のドアを開けると、俺たちに入るように促した。

俺は、ララザニアとベルドボルグに「大丈夫かな?」と聞く。

「当たり前ですわ」とララザニア。

「魔物ごときに何かが出来る訳はありませんぞ」とベルドボルグ。

2人とも悠然としているので、受付嬢に促されるままに、カウンターの後にある部屋に入った。


部屋の突き当りのデスクの向こう側に居たのは、ライオンの顔とヤギの顔を持つ双頭の巨人だった。椅子に座っていても頭が天井に届きそうで、胴体の左右に3本ずつの太い腕を持っている。さらに、両肩から何本もの触手が伸び、その尖端は鋭い牙が並んだ口やデカい目玉になっており、それがうねうねと動いている。

「お前達が迷い込んだ奴らか?」と獅子の口が喋った。

「ここは吾輩におまかせ下され」とベルドボルグが一歩前に出る。

「ここはアウトワールドとのことじゃが、あのダンジョンとはどのように繋がっておるのじゃ?」

双頭の巨人は、煩さそうにベルドボルグを見て、

「従者ごときは引っ込んでおれ。儂が話があるのは、そっちの神の腕の持ち主じゃ」

魔物が、うねうね動く触手の上に付いた大きな目玉で俺を見据えながら言った。

「俺に何か用か?」と俺。

「俺はアウトワールドギルドのギルドマスター、キマイライオンゴートだ。お前は、何をしにここに来た?」

俺は首を傾げて、

「何で来たんだろうな?」

「ふん、ちゃんと答えられないということか?」

「ここに来たのは偶然だ。何故ここに来たのか分からん」

「どういうことだ?説明してくれ」

「俺たちはこのダンジョンの攻略に来たんだ。17階で黒い沼のビッグスライムを倒して、沼の底にある階段から降りてきたらこの街に着いた。それだけのことだ」

「17階の黒い沼の底の階段だと?そんな階段など聞いたことないぞ?」

「いや、確かに階段はあったはずだ。なあベルドボルグ」

「はい、ございました」


この話を聞いて暫らく考え込んでいたキマイライオンゴートは、

「お前が神の創った何かだということぐらいは儂でも分かる。そんな奴がこの世界に現れたんだ。そんなことが意味もなく起こるわけがなかろう」

「そんなことを言われても、俺は神のことなんか、何も知らないぞ」

「う〜ん。お前さんに指名依頼を出したい。実は、ちょっと前から困ったことが起こっていてな。それを解決するには人間の世界で活動しないといけないから、人間の姿をした魔物を探していたところだったんだ。ちょうどそこに、お前さんがやって来た。そこで、俺はピーンと来た。これこそ、神の意思だ」

「ちょっと待て、俺は魔物じゃなくて人間だ。それに、俺には神の意思なんて関係はない。このアウトワールドギルドに冒険者登録していないし、そんな依頼を受ける義務はない」

「そう言うな。お前さんには、可能な限り便宜を図ろう。冒険者登録をする必要もないし、ここのギルドの規則で縛ることもしない。それに依頼内容は、人間の世界の利益にもなることだぞ」


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