第16話 沼の底の道

「まっ、とにかくやってみよう」

俺はまず、千里眼と気配察知の魔法陣を作動させた。

そして、俺は右腕を前に出し、沼の底に潜んでいるビッグポイズンスライムを、虚空拳で鷲掴みにした。5メートル以上あるスライムを、3メートル以上ある岩石の手で鷲掴みにして中空に引き上げたのだ。

「今だ、ベルドボルグ」

俺の掛け声と同時に、ベルドボルグから伸びた触手がビッグポイズンスライムに突き刺さる。突き刺さった触手は一気に太くなりビッグスライムの体液を吸い込み始めた。

ビッグポイズンスライムは抵抗しようとするが、体の上半分を俺の虚空拳で鷲掴みにされているので動けない。

ビッグポイズンスライムがブルッと一回身震いしたときには、もう半分位の大きさになっていた。

ベルドボルグの触手はさらに太くなって、もうビッグスライムの大きさと、同じ位の太さになっている。

次の瞬間、ビッグポイズンスライムが消えて、ステータスボードに文字が現れた。


『ビッグポイズンスライムを倒しました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

レベルが一気に10位上がった。

俺とララザニアも、執事の爺さんのレベルアップの恩恵を受けたらしい。


『ベルドボルグアサシンスライムは、ベルドボルグジェノサイドヒュージースライムに進化しました』

レベルアップで、執事の爺さんは、ベルドボルグジェノサイドヒュージースライムというものになったようだ。


『ベルドボルグジェノサイドヒュージースライムは、ジェノサイドを習得しました』

『コルベメネスは、ジェノサイドを習得しました』

『ララザニアは、ジェノサイドを習得しました』

続けて3人とも、ジェノサイドという物騒なスキルまで習得した。


「ジェノサイドってどんなスキルだ?」

と俺はベルドボルグの方を向いて固まった。ベルドボルグの奴、今度は巨大化しやがった。身長が俺の3倍もある。

「おい、ベルドボルグ、なんでそんなにでかくなったんだ?」俺は見上げて喚く。

「おぉ、これは失念しておりました。スライムは密度が薄いので、気を緩めるとこのように巨大になってしまいます。人間サイズに戻りますのでお待ちください」

ベルドボルグはすぐに最初の執事の姿に戻った。


「ジェノサイドは、全滅させるスキルです」

「全滅?」

「対象はダンジョンの1階分とか、お城の敷地内全てとか、国境線の内側全てとか、属性による範囲指定をして使います」

「使えばどうなるんだ?」答えは予想出来るけど、念の為聞いておく。

「範囲内の対象は全滅します」

「全滅するのか?範囲攻撃とかじゃないのか?」

「そんな手間のかかることはしません。いきなり全滅です」

「じゃなにか?生き残るものはないと?」

「いえ、対象外となるものを指定することが出来ます。例えば、人間は対象外とか、あるいはコルベメネス様とリーザ殿とララザニアは対象外にするなどのようにです」

「なるほど、それなら使えるな。しかし、いきなり全滅か?えげつないスキルだな」

「もっともレベルが低いうちはそれほど広範囲には使えません」

「それはそうだろうな」

「モンスターハウスでジェノサイドを使えば、レベル上げには持ってこいですぞ」


「ベルドボルグは、スライムの吸収はもうよろしいのですか?」とララザニア。

「いやいや、まだまだ吸収するつもりじゃ」

「ところでこの階から下に行くにはどうすればいいんだ?」と俺。

「この沼の底に階段があるようです」とベルドボルグ

「こんな沼の底へどうやっていくんだ」

「吾輩がスライムに戻って二人を包みましょう」

ベルドボルグはそういうと、スライムの姿になった。さっきのビッグポイズンスライム並みの大きさがある。そのスライムの体の一部が縦に開いた。

「ここからお入りください」

俺はララザニアと顔を見合わせると、二人で肩をすくめてから中へ入った。

「それではまず無呼吸のスキルを発動させてください」

『そうか、スライムになったベルドボルグから無呼吸のスキルをもらってたんだな。しかし、あれはスライムだから平気なんじゃないのか?人間が無呼吸でも大丈夫なのか?』

俺は心配になって無呼吸のスキルの代わりに、空気確保の魔法陣を創って俺とララザニアに被せた。これで俺とララザニアの周りには空気のドームが出来て呼吸には困らない。

『あれ、最初からこれだけでよかったんじゃないか?』って疑問に思ったが、ベルドボルグの好意をむげにするのもあれなのでその後はベルドボルグに任せた。

巨大なスライムになったベルドボルグは、俺たちを収納したまま沼の中に入っていく。

ベルドボルグの体内から、スライムの透明な肉体越しに外は見えるが、沼の水は真っ黒なので視界はゼロ。従って周囲がどうなっているか分からない。

「34階まで攻略されているということは、ここを通った奴らもいたということだな」

『いえ、この通路はまだ誰にも知られておりません』とベルドボルグの念話。

「なんでそんなことがわかるんだ」

『ビッグポイズンスライムの記憶も吸収しましたから。このビッグポイズンスライムは500年間ここに潜んでいて、何者とも会っておりません』

「えっ、それじゃ他の道があったということか?」

『ありえます』

「じゃ何故ここを通っているんだ」

『吾輩が通りたかったからです』

「何なんだよ、それ?ベルドボルグさん、あんたの気まぐれ?」

『只の気まぐれではござらん。こっちの方がだいぶ近道になるかと』

「そうか、それはよかった。ハハハッ」と俺は力なく笑う。


「さあ階段に着きました。降りますぞ」俺たちは18階に着いた。

俺とララザニアがベルドボルグのスライムから出ると、そこには歓楽街が広がっていた。

『モンスターの楽園』なんて書いてある看板があり、その下の目抜き通りを大勢の魔物が行き来している。道の両側には店が並び、どの店も客を呼び込んでいた。

「おいベルドボルグ、どこかにワープしたのか?」

「いえ、普通に階段を降りただけですぞ」と人間の姿に戻った執事が答える。

「ダンジョンの中にこんな街があるなんて聞いてなかったぞ」と俺。

「私も聞いたことがありませんわ」とララザニア。

「吾輩もじゃ」

「う〜ん、あんまり頼りにならないな、お前たち」

そんなことを言いながら街並みを見つめていると、見慣れた看板が目についた。

「あれはギルドの看板じゃないか?」

「確かにギルドの看板ですな」

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