第13話 幽霊侍女

俺達の安全確保と、ダンジョンでの稼ぎを増やすために、思いつくだけの魔法陣を作動させておく。

こうして俺達は、冒険者達が多い3階までを素通りして4階にやって来た。

1階、2階でよく出るモンスターは、スライム、ゴブリンという定番モンスターだ。3階からはスケルトンも出現する。

4階に進むとモンスターの格が少し上がりスチールスライム、クロムスライム、ポイズンスライムといったスライムの上位種、ホブゴブリンやゴブリンソルジャーなどのゴブリンの上位種、グールやゾンビなどのアンデッド系の上位種などが現れる。

魔物の種類に統一感が欠けるが、ダンジョンの原理すら分かっていないのだから、誰も不思議に思わない。


オートマップを見ると、角の向こう側に魔物が2体待ち伏せしている。俺は、ショートソードで打ち出した虚空斬撃で魔物を倒した。虚空系の攻撃は、次元攻撃だから、間に障害物があっても関係ない。マップや気配察知で位置さえ把握していれば、相手に直接、攻撃が届く。


ステータスウィンドウに『グールを倒しました』という文字が燦めき、俺達が角を曲がったときにはドロップアイテムだけが残されていた。

グールがドロップしたのは毒消しポーションが入った小瓶だった。この小瓶は一つ、銀貨1枚で売れる。儲としては少ないが、浅い階層ではこんなものだろう。

さらに進むとホブゴブリンが現れる。これも虚空斬撃で一蹴する。ドロップアイテムは薬草だった。

やはり、浅い階層のドロップアイテムはしょぼすぎる。そこで、ドロップ内容変更の魔法陣を用意しておく。

次の角では、2匹のゴブリンソルジャーが待ち伏せしていた。まず1匹目を、普通に虚空斬撃で倒す。次に2匹目を、ドロップ内容変更の魔法陣を作動させて虚空斬撃で倒した。

普通に倒した方は、錆びた剣をドロップした。ドロップ内容変更で倒した方は、ポーションをドロップした。

「やっぱり階層が浅いとロクなものをドロップしないな。もっと深い階層に潜るか」

俺達は、下の階へと急ぐことにした。

魔法陣の効果で魔物にも罠にも出くわすことなく15階まで降りた。ここまで深く降りてくると魔物も強くなるのでドロップアイテムも期待できる。

通路はかなり広く、天井も高い。ということは大型の魔物が出るということか?


最初に出会ったのはスケルトンナイトだった。スケルトンのウマにスケルトンの騎士が跨っている。ウマも騎士もフルプレートアーマーで覆われ、普通の攻撃は跳ね返しそうだ。

しかし俺には虚空斬撃がある。俺はリーザを後に庇いながら虚空斬撃を放った。

こちらの様子を伺っていた騎士の首が飛ぶ。同時に馬の前脚も切り飛ばしたので、馬が倒れ、首を失った騎士の体も馬から転がり落ちる。

すぐに倒れた魔物の姿は消えて、アイテムがドロップされた。剣が落ちていたので、近寄って取ろうとすると、

『危険です。触れる前に鑑定してください』

と声が聞こえた。俺は周囲を見回す。

リーザが「どうしたの?」と不安そうに聞く。

「うん、今声が聞こえた」

そうかすっかり忘れていたけど、久しぶりにララザニアの念話だった。

「ちょっと待ってくれ」とリーザに言ってから、鑑定の魔法陣を作動させて剣を見ると『封印の呪剣』と表示された。

効果を見ると、持つと手から離れなくなる呪いがかかる。そのため女神像の左手の能力が封じられる、とあった。

『大変なものが出てきた。女神像って、ほとんど万能だと思っていたのに、この程度の魔物のドロップアイテムで力が封じられてしまうのか?情けないんじゃないか?』と思っていると、

『その剣に触れないでください』とララザニア。

『随分久しぶりじゃないか。どうして急に出てきたんだ?』と念話を返す。

『今そちらに行きますので少し待って下さい』

ララザニアがそう言うと、俺たちの前の空間が輝きはじめた。光の粒子が渦を巻いたようになり、やがて人間の形をとり始める。やがて光が消えて、ギリシャ彫刻の女神像ような白い衣を着た女性が立っていた。

「コルベメネス様、初めまして。ララザニアでございます」

「あっ、あんたがララザニアか?確かに会うのは初めてだな」

リーザが後から俺の袖を引っ張り

「誰よそれ?」と聞いてくる。

「う〜ん、ララザニアといってな、説明するのが難しい」。

「私はコルベメネス様の侍女で、家庭教師で、乳母ございます。コルベメネス様がこの世に生を受けてから、ずっとお世話をしております」

「おい、ララザニア、俺がいつ・・・」と抗議しようとすると、

「乳母ですって?でも、さっき、初めましてって言ってなかった?」とリーザが突っ込む。

「私はあの世からずっとコルベメネス様を見守り、導いてきたのです。この世に姿を現したのは、今が初めてです。ですから初めまして、なのですわ」。

ララザニアが苦しい言い訳をしている。俺は関わらないように、素知らぬ顔を決め込んだ。

「あの世から?じゃあ、あなたはコルネスの乳母の幽霊?コルネスが心配過ぎて化けて出たの?」

「失礼な、私は幽霊ではありません」

「じゃあ、何故急に現れたりできるの?それに体が透き通っているじゃない。あなたは、絶対に幽霊よ。自分が死んだことが分かってないんじゃないの?」とリーザ。

「えっ、体が透き通っている?」

ララザニアは自分の体を見下ろした。ララザニアの体は確かに半分透き通っていた。

「こ、これは、濃度が足りないからです。少し待って下さい」

ララザニアの上半身が濃くなっいき、普通の肉体のようになった。しかし、普通の肉体のようになったのは上半身だけで、下半身は薄くなって消えている。

それを見て、「ほら、脚がないんじゃない。やっぱりあなたは幽霊よ、幽霊!」とリーザが騒ぐ。

「まっ、待って下さい。濃度を上半身だけに集めたから、下半身の分がなくなっただけですわ。やっぱり全身の濃度を均一に戻しますわ」

とララザニアが言い訳になっていない言い訳をする。

上半身に濃度を集めたら下半身が消えるのか?それなら下半身だけに濃度を集めたら上半身が消える?俺は下半身だけで上半身がない、つまり脚だけのララザニアがこちらに歩いてくるシュールな映像を思い浮かべてしまった。

「とにかく、この剣は私が回収します」

そう言いながララザニアラの幽霊、いや幽霊のようなララザニアが、向こう側が透けた手で剣に触れると、剣は消えた。

「剣は何処に行った?」

「異次元に収納しました」。

「ララザニアは、触っても大丈夫なのか?」

「私の体はこの通り実体を持っていませんので」

「そうか、やっぱり幽霊だったか」と俺。

「もう、どちらでもよろしいです。とにかく、このままコルベメネス様の護衛を努めますわ」

しつこくからかい過ぎたのでララザニアさんはご機嫌斜めのご様子です。

「ねぇコルネス、あなたこの頭のおかしい幽霊と、本当に知りあいなの?」

「あぁ、ララザニアは、言ってることが理解出来ないことが多いが、心配ない、俺の味方だ。たぶん」

「ちょっと、言ってることが理解出来ないことが多いって。それに、たぶんって・・・」

ララザニアが抗議するのを無視して、

「それより、これから俺を護衛するというのはどういうことだ?」

「我が主様への攻撃があからさまに行われたということは、もう宣戦布告をされたのと同じことです」

「宣戦布告?誰が誰に対して?」

「敵の正体は分かりません。しかし、今回の手際から考えて、古の神々が絡んでいることは間違いないでしょう」

その言葉を聞いたリーザは、

「コルネス、あなたは神の血を引いてるの?」と聞いてきた。

「あなたの強さや何でもできる魔法をみていると只の人間とは思えないけれど、神の血を引いてるとは思わなかったわ」

「俺が神の血を引いてるわけないだろう」

「でも、この幽霊さんが我が主様って」とリーザ。

神話時代には、神の血を引いた英雄や飛び抜けた力の持ち主が生きていたらしい。リーザはララザニアの言葉、とくに『我が主』の部分を俺のことだと誤解して、俺が神の血を引く者だと考えたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る