第11話 ランクの裏取引
ギルドマスターはようやく立ち上がって、
「それにしてもバカげた力だな。避けれないわけじゃなかったから受けてやろうと思ったが、それが失敗だった。とにかく俺の部屋まで来てくれて」
こう言って試験官あらためギルドマスターは先に立ってマスター室に向い、俺とリーザ、受付嬢が続いた。
ギルドマスターは部屋に入ると、
「自己紹介がまだだったな。俺はこの街のギルドマスターをやっているダドリンだ。元はAランク上位の冒険者だった」
「俺はコルベメネスだ。魔法剣士だ。こっちは相棒だ」とリーザに視線を向ける。
「リーザーネです。彼とパーティーを組んでます」
若い女性の冒険者はパーティーに入ってないといろいろ厄介ごとが起きるので、パーティーに入っていることは真っ先に告げる必要がある。
「パーティーは2人か?」
こくこくと2人で頷く。
「ところでコルベメネス、これまで何をやっていた?」
一番聞かれたくないところを聞いてきやがる。
「これは試験の続きか?」
ギルドマスターは首を横に振り
「いや、個人的な興味で聞いただけだ」
「俺がこれまで何をやっていたかは、冒険者になるのに関係はないんだろう?」
「ああ、犯罪者や盗賊なんかでなければな」
「そんなことはしていない」
「まぁ、お前ほどの腕だ、どこの国へ行ってもその国のトップクラスの剣士に数えられるだろうからそんな心配はないな。今までどこかの国に仕えていなかったのか聞きたかっただけだ」
「もし、どこかの国に仕えていたとしても、冒険者になるのに問題はないんだろう?」
「あぁ、もちろんだ。冒険者にはいろいろな経歴の持ち主がいるからな」
「それで、ここへ俺を呼んだ理由は何だ?」
「あぁ、一つは試験の結果を伝えるためだ」
「それで結果は?」
「もちろん合格だ。ただし、ペナルティがある」
「ペナルティ?」
「お前、剣を止めることが出来たのに止めなかっただろう?」
「えっ?」
まったく意外な言葉だった。
「いや、それはあんたが止めると思ったから」
「お前ほどの実力があれば、止めて当然だ。俺は元Aクラス上位の冒険者だぞ。引退してしばらく経っているとはいえ、まだ衰えてはいない。その俺がお前の剣を受けた感触は、十分にSクラスの剣戟だ。Aクラスであの剣を受け止められる奴はいないはずだ。それなのに、足さばきはいいところがCクラス、アンバランス極まりない。相手を油断させるためにわざとやっているのかと思ったがそうでもなさそうだ。そこでペナルティはだな、俺を足さばきで油断させた代償に、足さばきの練習をしろというものだ」
「足さばきの練習?それは強制か?」
「もちろん強制だ。俺が足さばきを仕込んでやるからな。今日この後の時間を空けておけ。それで俺の授ける足さばきが身についたら特別にCランクで登録させてやる。どうだ、普通ならDランクで登録出来てもCランクになるには1年かかる。それが1日に短縮出来るんだ。いい話だろう」
「何でそんな好待遇をしてくれる?」
「俺の沽券に関わるんだ。Dランク相手にのされたとあっちゃギルドマスターの権威は地に落ちる。しかしCランクには強豪が隠れていることがある。実力はあっても高ランクに伴う義務が嫌だという奴はわざとCランクに留まっている。だからあんたのランクを無理やりにでもCに上げておけば、あんたも隠れた強豪かもしれないということになって俺の対面が保たれるというわけだ。どうだ、協力してくれるか?」
えらく素直に本音を話すんだな。と俺はこの男に好感をもった。
「分かった。この後の時間だな。リーザはどうする?」
「見物するわ」
こうして俺はその日、夜まで足さばきの特訓を受けた。それで上達したかというと、俺の足は生身だからな。足にまめが出来て筋肉痛になっただけといえば結果が分かるだろう。
「まったく剣の扱いは超一流のくせに、足さばきはまったく上達しないとはな。これ以上やっても無駄だろう。今日1日無駄にしたようなもんだが仕方がない。Cランクで合格にしておこう」
こうして俺は、異例中の異例として、いきなりCランク冒険者として登録された。
俺たちは宿に戻ると遅い夕食を食べた。
部屋に戻ると、すぐにブーツを脱いで足を調べる。足にはマメが何度も出来ては潰れを繰り返して、あちこちの皮膚が破れ、血だらけになっていた。
「酷い目にあった」
俺は足にヒールをかけ、部屋に備え付けの雑巾を命の水で濡らして足を拭くと、ベッドの上に寝転がった。
リーザがそんな俺のベッドに腰をかけると
「大変だったわね。あっそれから、Cランクおめでとう。たった1日で追い抜かれちゃったわね」
「そういえばリーザは、Dランクって言ってたな?」
「お祝いに何か欲しい?」
「キスでいいよ」
と俺はリーザの腰に手を回した。
「んっ〜、コルネスったら」
リーザはそういいながら俺にお祝いのキスをしてくれた。その後は、説明するまでもない。
次の日の朝
「さて、今日はどうする?」
「まずギルドに寄って依頼を探さないと。この2日でだいぶお金を使ったしね」
「そうだな」
リーザの元パーティーメンバーが持っていた金を俺たちは折半したが、服や防具などを買い、宿代やギルドの登録料などの出費で、手持ちの金はどんどん減っていく。
「明日から早速、依頼を受けましょう」
「そういえば、俺の異次元収納に魔物がいっぱい入っているんだが、冒険者ギルドで買い取ってもらえるのか?」
「何が入っているの?」
「ホーンホースやクラックベアとか、いろいろだな」
「明日にでも、冒険者ギルドで買い取ってもらいましょう」
翌朝、俺達はリーザの提案通りにギルドに顔を出した。
昨日の件はあっという間に広まっていて、ギルドのドアを開けると視線の集中砲火を浴びた。
そんな視線を無視して俺達は依頼ボードの前で依頼を探す。
「お偉い新人さんは、俺たちを無視か?」
お決まりの絡みというやつだな。
俺は振り返って、声をかけてきた男を見た。2メートルはある大男がにやつきながら立っている。
「うるさい」
俺は男の鳩尾に、わずかに拳を大きくした巨岩拳を叩き込んだ。
一見普通のパンチに見えたが、鳩尾を巨岩拳で殴られた男は、胃液を撒き散らしながら部屋の反対側まで吹っ飛んで、壁にぶつかってそのまま床に倒れた。多分胃は破裂し、肋骨も何本か折れているだろう。
俺はそのまま地面に倒れた男に近づいてヒールをかけた。男の体が一瞬光ってすぐに消えた。鑑定の魔法陣で状態を見ると、十分に生きているのでそのまま踵を返して依頼ボードまで戻った。
「ああ、びっくりした。止めを刺しにいったのかと思ったぜ」
「おい見たか今の光、ヒールだぜ。魔法も使えるのかよアイツ」
「あのパンチ、そんなに凄いとは思えなかったのに、何であんなに吹っ飛んだんだ」
「おい、あのザルドが一発かよ、何者だ?」
「知らないのか?昨日の登録試験でギルドマスターを殺しかけた奴だぜ」
ギルドの酒場にたむろっていた冒険者たちがざわめく。
俺達はそんな声を無視して、依頼を探す。
俺の視線の先にダンジョン調査というのがあった。俺は依頼書を手に取って、
「これはどうだ?」とリーザに聞いた。
他の依頼票を見ていたリーザはその依頼内容を見て、
「コルネスが行きたいならいいわよ」と言った。
「これをやってみたいんだ。これで決めていいか?」
「うん」とリーザは頷く。
俺たちカウンターに行って、依頼票を渡して
「この依頼を受けたい」と言うと、
「あ、あなたは昨日の・・・」
昨日の受付嬢だった。
「やあ、昨日は世話になったな」と俺は挨拶する。
「それより、この依頼だけど」
依頼票を見た受付嬢は「はい?」と語尾を上げながら、
「ダンジョンの経験は?」と聞いてきた。
「ない」と答えると、
「この依頼はCランクからですけど」と不審げな声を出す。
「俺はCランクだから問題ないんじゃないのか?」
「それはそうですけど」とリーザの方をチラリと見る。
「俺がCランクなら俺たちのパーティーもCランクだろう。だったら手続きをしてくれ」
「分わかりました」
受付嬢は、冒険者になったばかりの俺とDランクのリーザが、難易度が高いダンジョン調査に向かうのを渋々だが認めた。
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