第8話 弱味に付け込むクズではない
「4匹いたのよ。熊の魔物は群れないから、きっと親子だったのかもしれない。3匹はそれほどでもなかったの。だけどあいつが、あの1匹が強すぎたの。最初に、あいつが突っ込んで来て、あっという間に2人が死んだわ。私達が反撃しようとした途端、後ろから3匹が襲ってきたの。負けそうなときはパーティーの判断で勝手に逃げてもいいという決めごとをしていたので、私達のリーダーは直ぐに撤退を決めたの。だから私達のパーティーは離脱して逃げ出したんだけれど、それが裏目に出たみたい。あいつは直ぐに私達を追いかけ始めて。結局、私達は必死に逃げたことで囮になってしまったのよ。他のパーティーはその間に別の方に逃げたんだと思うけど、私達は、結局あいつに追いつかれてみんな殺られてしまったのよ」
とリーザーネはうなだれる。
「そうか、仲間は残念だったな。しかし、何のためにこんな森の奥までやって来たんだ?」
「理由はリーダー達しか知らなかったわ。ただ、珍しい魔物の素材が手に入るみたいなことを言っていたわ」
「理由も知らずに、死ぬかも知れない危険な場所までやって来たのか?」
「この辺りは、そこまで危険な森ではない筈なのよ」
「それでいつまで森にいるつもりだったんだ?」
「それも知らされてなかったわ」
「だけど食料をどれくらい持って行くかで分かるだろう?」
「倒した魔物を食べるから、食料の量では日程は分からないわ。水も現地調達だったし」
「そうか、それなら分からないか」
「ところであなたは、あいつを一人で殺したのよね?」
「ああ」
「どうやって?」
「それは秘密だ」
「そうね、冒険者は自分の手の内を明かさないものよね。聞いて悪かったわ」
「気にするな」
「ところであなたの方こそ、これからどうするの?」
「う〜ん、とりあえず街を目指している」
「どの街を?」
「とにかく街ならどこでもいいんだ」
「私も付いて行っていい?」
俺はリーザーネの方を向いてしげしげと顔を見た。
「だ、だって私一人ではこの森を生きては出られないし・・・」
「俺と一緒なら守ってもらえる。そういうことか?」
リーザーネは屈辱に顔を赤らめながら、悔しそうにコクリと頷いた。
「う〜ん、守ってやってもいい。だけど交換条件がある」
「ちょ、ちょっと待って。守る代わりに抱かせろというのはなしよ。弱みに付け込まないで」と、リーザーネは焦る。
「そんなことは考えていない。俺の条件というのは、街のことを教えて欲しいというものだ」
「街のことを?」
「俺は街のことをよく知らない。だから街のことを知りたいんだ」
「ランダイの街のことなら教えてあげるけど?」
「ランダイ?」
「私が拠点にしている街よ。ランダイという名前も知らないの?あなたは何処から来たの?」
「分からないんだ。気がついたらこの森にいた。それで長い間森の中を彷徨っていた」
「この森に長くいたの?魔物に襲われなかった?あっ、あいつを倒したんだから、怖いものなしか」
「まあそんなところだ」
俺は話を誤魔化す。
「なら、こうするのはどう?私とパーティーを組むのよ。同じパーティーなら助け合うのは当たり前でしょ。私は一人ではこの森から生きて出られないし、あなたは街のことが知りたい。私は街の案内役として十分に役に立つ自信があるわ。それに、あなたさえよければ、街に戻ってもパーティーを続けて一緒に稼ぐという手もあるわ」
俺は、腕組みをして、その申し出について考えた。
『俺はこの世界のことを知らないから、いろいろ聞ける相手がいるのは有難い。だけど、俺の両腕の秘密は、簡単に誰かに知られていいようなものではない気がする』
「パーティーを組むという話は、街に着いてから考えたい。今は、そうだな、護衛の交換条件としては、街に着くまでの間に俺の知りたいことを教えてくれる、ということでどうだ?」と、逆に提案した。
「そ、そうよね。私じゃ、あなたの足でまといよね」と、リーザーネはがっかりしたように答えた。
「それでも、街に着くまではパーティーを組んでみるか」
「よかった。今から私達は相棒ね。私のことはリーザと呼んで」
「リーザか、分かった。俺のことは、そうだなコルネスと呼んでくれ」
「コルネス、よろしくね」
「こっちこそよろしく、リーザ」
こうして俺たちは、2人だけの臨時のパーティーを組んだのだった。
「今日はここで夜を過ごそうか?」
「ここで?こんなに開けた所で?危険じゃない?」
「魔物が入って来れない魔法陣を作動させるから大丈夫だ」
「そんなことができるの?」
「ああ、俺はいろんな魔法陣が使える」
「魔法使いなの?剣士じゃないの?そういえば、剣はどうしたの?丸腰だけど?」
「剣は、いつもはしまってある」と言いながら左手に剣を出す。
リーザは目を丸くしてその剣を見つめた。
俺はすぐに剣を消して、
「俺は、いわば魔法剣士だ」と答えた。
「収納魔法で剣を隠しているの?相手を油断させるため?」
本当は剣が左手の一部であることがばれないように、リーザといるときは剣を隠すことにしただけだが、相手を油断させるためというのはいい口実なので、それを使わせてもらうことにした。
「そうだ、剣の他にも槍とかいろいろ武器はあるが、相手を油断させるために普段は武器を隠している」
「そういえばあの熊は切られてなかったようだったけど、ほかにはどんな武器を持ってるの?」
パーティーを組んだといっても、街に着くまでの関係だ。俺の秘密をあまり知られるのは不味い。だからといって、これから一緒に行動する以上、何も知られずに済むわけはない。要は何を見せて何を隠すかだ。
『剣術は全部見せていいだろう。虚空斬撃は魔法剣だといい逃れができるだろうから、虚空斬撃は隠さないことに決めた。それに、これを使わないと魔物に出会ったときに不便だ。槍と巨岩拳は使わないと決めた』
そこまで考えて、
「機会があったら見せてやるよ。それより、そろそろ飯にしないか?」
と話題を変えると
「そういえば、喉が渇いたわ。水筒は持ってる?」とリーザが、話題に乗ってきた。
「水は魔法で出せる」俺は左の掌を水を掬うような形にしてリーネの前に差出した。
「命の水」と俺が唱えると掌に水が溜った。
「飲んでみるか?」
「それ魔法なの?」と聞きながらもリーネは俺の掌に自分の口を近づけた。そして、水に口をつけるとすぐに貪るように飲みはじめた。リーザは暫くの間、一心不乱に命の水を飲み続けた。
「あ〜美味しかった。こんな美味しい水、飲んだことないわ。不思議ね。いくら飲んでも減らないし」
「そんなに美味しかったか?」
「美味しかった。それに元気も出たし」
「この水は命の水という魔法だ。この水を飲んでいれば、何日かは食べなくても大丈夫なくらいだ」
「そんなに凄い水なの。魔法が使えるっていいなあ。羨ましいなぁ」
「リーザは魔法は?」
「使えないわよ。魔法を使える冒険者は少ないわ」
「そうなのか?冒険者の半分くらいは魔法使いだと思っていたんだが?」
「コルネス、あなた本当に何も知らないのね」
「だから知らないといっただろう」
「魔法が使える冒険者は一握りよ」
「それじゃ、リーザのパーティーに魔法使いは?」
「水魔法の使い手が1人いたわ。他のパーティーに、もう1人、火魔法の使い手がいたけど」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます