第5話 俺自身は無力らしい
俺は少し離れた樹に向かって立った。
『虚空拳』と念じて右の拳を振る。
拳は一瞬大きくなり、バキッという音とともに少し離れたところにあった樹が折れた。拳が届いていないのに樹が折れた。虚空拳が使える。俺は思わずガッツポーズをした。
『次は、次元収納だな』
俺は自分が折った樹のところに行き、右手で触れる。途端に目の前の樹が消えた。頭では分かっていても、実際に見るとびっくりする。
目の隅のステータスボードに『異次元収納』の文字が現れ、収納一覧の中に『折れた樹木』とある。
『次は、取り出しだ』
ステータスボードの収納一覧から『折れた樹木』を選び、『取出し』を選ぶと目の前にさっきの折れた樹が現れた。
「重力操作はまだグレーのままだ。重力操作は、いつ使えるようになるんだ?」
『巨岩拳がLv20になれば使えます』
次に、女神の左腕はどんなことができるのかと思って、
「ララザニア、右腕は次元収納ができたけど、左腕はできないのか?」と問いかけると、
『簡単に出来ますよ』との答え。
「どうやればできるんだ?」
『収納の魔法陣をつくれば、使えるようになります』
「それではつくってくれ」
『魔法陣をつくるのはあなたです。私にはそんな力はありません』
「そうなのか?つくってもらったら助かるんだが?」
『甘えないでください。私はアドバイスをするだけです』
案外冷たい答えが返ってきた。
「分かった。それなら、やり方を教えてくれ」
『ステータスボードで魔法陣の項目を探してください』
「魔法陣の項目?あった、あった」
『魔法陣のサブウィンドウを開いてください』
「うん開いたぞ。何だこりゃ?」
サブウィンドウには、細かい文字がびっしり並んでいた。
「字が小さすぎて読めないんだけど」
『拡大出来ますよ』
「どれどれ、おおっ、大きくなった」
『それらの文字は魔法陣のカテゴリーを分類したものです。そのカテゴリーの中から、収納と異次元を選んでください』
「何だかゲームの設定画面みたいだな」
『一番上にコマンド一覧があるでしょう』
「ああ、あった。あった」
『選択を押して、魔法陣作成を押してください』
押すというのは比喩的な表現だ。押した気になるというところだ。
するとウィンドウの中央に魔法陣が現れて、その中の文字やら模様やらがいろんな風に回転し始めた。その場でクルクル回っているものがあるかと思えば、魔法陣の円周に沿って回っているものもある。回っている方向も速度もバラバラだ。すると急にそれらの動きが落ち着いてきて、一つのカタチで静止した。そして一瞬輝くと数回点滅して、『異次元収納の魔法陣が完成しました』という表示が現れた。
「おぉ凄い。異次元収納の魔法陣か!どうやって使えばいい?」
『その前にその魔法陣を保存してください』
「保存までするのか?本当にゲームみたいだな」
俺は保存ボタンを選んで保存した。
『次は、魔法陣一覧を見てください』
「結構、面倒いんだなぁ」
『魔法陣は一度つくっておけば、次からはつくらなくても使えます』
「そうか、つくって置いておくのか」
と、俺はブツクサいいながら魔法陣一覧を表示させた。するとそこに一つだけ魔法陣の名前があった。今つくった『異次元収納』という名前の魔法陣だ。
「どうやって使うんだ?」
『魔法陣を作動させて、収納したいものに触れて下さい』
魔法陣の横にある作動ボタンを押すと、さっきの折れた樹を触った。すると折れた樹が目の前のから消えた。
『異次元収納の魔法陣を見て下さい』とララザニア。
言われた通りに見ると、魔法陣の下に『収納物一覧』の表示があり、そこに『折れた樹木』の表示があった。
出すときはこのボタンだな。『取出し』と表示されたボタンを押すと、目の前に樹が現れた。魔法陣の方が使うのに少し手間がかかるが、慣れてしまえば問題ないだろう。
それより魔法陣のカテゴリーの多さだ。数え切れないほどある。ということは、いろんな種類の魔法陣をあらかじめつくっておけばいいということだ。この可能性は大きい。少しばかりチートだな。
『その通りです。魔法陣は便利過ぎるほどのスキルですよ。おまけにスキルですから、魔法陣を作るときも使うときも魔力を消費しません』とララザニアが説明する。
「そうなのか?ということは、魔力ゼロで魔法が使えるということか?」
『そうです』
「それは凄いじゃないか!ところで俺はどれくらい魔力を持っているんだ?」
と、意気込んで聞いたところ、
『ゼロです』と無情な返事が返って来た。
「ゼ、ゼロだって?だって今、いろんな魔法を使っているじゃないか?」
『あなたが使っているのはスキルです。魔法のようですが魔法ではありません。それにそのスキルを使えるのは女神像様の左腕と皇帝像様の右腕が、神の力と繋がっているからです。あなた自体はただの無力な人間に過ぎません』
「ちょっとそれは言い過ぎだろう?」
俺はかなり傷ついた。
『あなたに自覚しておいて欲しいから敢えて言っています。あなたの両腕はほとんど無敵ですがそれ以外の部分は生身の人間で、この世界では無力な存在です。ですから戦いのときは常に鎧で全身を覆っていてください。頭もですよ。それと強い敵には決して近付かないことです。両腕のスキルがあれば遠くから敵を倒せますから。もし遠くから倒せない敵が現れたら逃げて下さい。魔法陣を使えば、油断さえしなけれは逃げ遅れることはないでしょう。決して無理はしないことです』と、念を押された。
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