第4話 声だけの侍女と執事

何日、森の中をさ迷っていただろう?

出来るだけだ早く斬撃をレベルアップさせたかった俺は、魔物の群れを見つけては突撃して斬りまくるということを繰り返していた。

そしてやっと斬撃のレベルが10になり、虚空斬撃が使えるようになったとき、突然、頭の中で声が響いた。

『突き技と斬撃がLv10になりましたので、女神像の左腕の魔法である魔法陣が開放されました』

「えっ?誰の声だ?」

俺はキョロキョロと周囲を見回すと、

『自動メッセージでございます』と、再び頭の中で声が響いた。先ほどとは違う女の声だ。

「自動メッセージ?」

『私は女神像様の侍女ララザニアでございます。女神像様の覚醒の依代になられた貴方をサポートいたします』

「侍女?ララザニア?姿が見えないが何処にいるんだ?」

『今は貴方にだけ聞こえる声としてのみ存在しています』

「声だけの存在か?それに聞き逃せないことを言ったな?今は、だと?女神像の覚醒のために俺が依代になっただと?どういうことだ?」

『最初の質問からお答えいたします。今は声だけですが、女神像様の覚醒が進みますと、私は実体を持つことができます。続いて2つ目の質問にお答えいたします。貴方の左腕は、太古に失われた▲◎▼※■文明の守護女神アメネス様の女神像様の左腕そのものです。▲◎▼※■滅亡の時、大陸を消滅させた大災厄によりアメネス女神像様も左腕だけを残して消滅され、アメネス女神様ご自身も力を失って悠久の眠りに陥っておられましたが、女神像様の左腕が創造神様達の奇跡により貴方の左腕として復活されました。とはいえ、その力のほとんどはまだ眠ったままであらせられます。貴方が女神像様の力を使うことで、そのお力も目覚めていきます』

「ちょっと待て。そんなスケールの大きな話を一度に言われても理解が追いつかない。それに、よく聞き取れなかった、滅んだ文明とかいうのは何だ?」

『▲◎▼※■は、今の人間には聞き取ることも発音することもできません。▲◎▼※■は、遥かな昔に栄えた文明の名前です。人々は自由に空を飛び、誰も働かずとも生きていける理想郷でした。気候は魔力によって一年を通して春のまま。にも関わらずあらゆる作物が常にたわわに実り、すべての人々が豊かな生活を送っておりました。そして、その▲◎▼※■文明、いえ、その文明を含めた広大な▲◎▼※■大陸を守っていたのは60柱の神々であり、それらの神々の力を宿した60柱の神像でした。しかし、あるとき、大災厄が起き、▲◎▼※■は大陸ごと消滅し全てが失われました』

ララザニアと名乗った女性の声は続く。

『60柱の神像もほぼ全てが消滅し、残されたのは、アメネス女神像様の左腕のみでした。守護神像に力を与えていた60柱の神々もこのとき力を失いました。アメネス女神様も自らの力を注ぎ込んだ神像の消滅によって倒れ、今もって深い眠りについておられます。それでもアメネス女神様の場合は、幸い神像の左腕が残りましたので、時が経てば力を回復されるはず。そして今、創造神様達がアメネス神像様の左腕を貴方の魂と合体させてこの世界に蘇らせたのです』

「う〜ん?よく分からん?俺の左腕というのは女神像の腕なのか?それとも女神の腕なのか?」

『女神像様の腕です』

俺は自分の左腕を見て、曲げたり伸ばしたりしながら、

『像なのか?何で出来ているんだ。それになぜ動くんだ?』と疑問に思った。

『オリハルコンで出来ています。そしてなぜ動くのかは私にも分かりません。元々、▲◎▼※■で祭られていたときの守護神像様は普段は動かず、それぞれの神殿とその領土を守っておられました。しかし、緊急事態が起きたときには動くことがありました。とはいえ、どのよう力で動いているのかは私には分かりません。それに今のように人間の体の一部のように普段から動いているというのは、どのような力の働きなのか私にわかるはずもありません』

「ふ〜ん。あんまり役に立たない侍女じゃないか」

『申し訳ありません』

「それで、女神像というのは、ただの像なんだろう?なんで動いたり、力を持っていたりするんだ?」

『それは、守護神様たちはこの世界には直接関われないからです。そこで神像様を世界に配置して、神像様を通じて世界を守っておられたのです』

「う〜ん?よく分からない話だな?だけと、ララザニアさんだったっけ?あんたの話を聞いた限りじゃ、俺のこの左腕はオリハルコンで出来ているということか?」

『ララザニアで結構です。それと、貴方の左腕は間違いなくオリハルコンで出来ています』

『それならこの右腕もオリハルコンか?』と考えたとき、

『オリハルコンではない。皇帝石だ』

と、頭の中で男の声がした。

『なんですか貴方は?私がコルベメネス様とお話をしているのに、横から割り込まないでください』とララザニアが憤る。

『おっと失礼。先程から待っておったのですが、そなたの長話が終わらないので業を煮やして、口を出させてもらった』

「あんたは誰だ?」と俺が聞くと、

『皇帝像様の執事ベルドボルグにございます』

「今度は皇帝像か?あんたも女神像の仲間か?」

『違いますぞ。我がコルベヌ皇帝陛下の神像におかれましては、そのお力は、女神像よりも遥かに強大でございます』

「皇帝ということは、人間なのか?」

『コルベヌ皇帝陛下様は神人でございます。而して、そのお力を注がれたのがコルベヌ皇帝陛下様の神像でございます』

「う~ん、よく分からん」

『コルベヌ皇帝陛下様の神像であるコルベヌ皇帝像様も、大災厄によって右腕のみを残して消滅されました。そのときコルベヌ皇帝陛下様も深い眠りにつかれたのでございます。そして、創造神様達がコルベヌ皇帝像様の右腕をそなたの魂と合体させて、この世界に甦らせましたのじゃ』

『巨岩拳がLv10になりましたので皇帝像の右腕のスキルである次元操作が開放されました』

また、脳内でアナウンスがあった。

「この声は何だ?」

『自動メッセージでございます』

『我々と違って意志を持たず、ただ状態を伝えるだけの声です』

「ふ〜ん。あんたにララザニア、それに自動メッセージか?俺一人なのに、声の方は賑やかだな。ところで次元操作って何だ?」

『次元を操作出来るスキルです』

「どんなことが出来るんだ?」

『まず、虚空拳を打つことが出来ます』

「あっそうか、虚空拳か。次元斬撃と並ぶ次元系スキルだな。あれ、槍や剣のときは、次元操作に関係なく、虚空突きと虚空斬撃を使えたけどな」と疑問を口にすると、

『アメネス神像様には、そんな無粋なスキルは必要ありません』とララザニアが横から口を出す。すると、『だまらっしゃい』とベルドボルグが応えた。

2人が口喧嘩を始めそうだったので、俺は強引に話を戻す為、

「その虚空拳の射程はどれくらいだ?」と聞いた。

『レベルによって変わります』とベルドボルグ。

「それは当然だな」

と答えて、俺はステータスをチェックした。

虚空拳はLv1だった。

「Lv1なら?」

『5メートル程度かと』

「思ったより短いな」

『レベルを上げれば遠くまで届くようになります』

「分かった。他にもあるか?」

『いろいろありますが、次に重要なのは異次元収納でしょう』

「おお、なんとかポケットみたいなやつか?」

『どんなものでも異次元に収納できます』

「どんなものでも?生きているものもか?」

『もちろんです。ただし、生きているものを収納する場合、こちらの次元に戻すときには死んでしまいます』

「ということは生きたまま保存出来ない?」

『いえ、保存している間は生きています。ただ、生きたまま取り出せないというだけのことです』

「なるほど。注意しよう。他に何か出来るか?」

『それはもうたくさん』

「そうか、それならおいおい教えてくれ。今は、虚空拳と次元収納を使ってみたい」

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