第2話 大きな岩の拳で殴れってわけか?

『次は武器か。さっき槍が出ていたけど、どうやって出すんだ?』

左手を体の脇で軽く握って『槍よ出ろ』と念じると、突然、手の中に槍が現れた。

驚いてその槍を見る。

槍なんか持ったことなどないが、とりあえず槍を構えようとして右手を沿えて、左手の位置を動かそうとしたが、動かせないのに気付いた。

いや、左手の位置が動かせないのではなく、槍は掌の一部のように、手から直接生えていたのだ。

『どうなってんだ?』

左手を開いても、槍は掌にくっついたまま離れない。

『この槍は左手の一部なのか?』

左手は槍の真ん中辺りを握っている。

『これじゃあ、槍の長さを活かすことが出来ないな』

そんな風に思ったとたん、槍の前半分が伸びた。伸びた槍の全長は7メートル位だろうか。今は、槍の後から7分の1くらいのところを握っている状態になった。

不思議に槍の重さは感じない。

『この槍は伸縮自在なのか?もちろん長さには限度があるのだろうけれど』

色々試してみると、この槍は俺のイメージに合わせて、長くなったり短くなったりするようだった。

一番長くなると7メートルほど、短くなると1.8メートルぐらいか。その間の長さなら自在に長さを変えられる。

『これってもしかしたら?』

俺はそう考えて少し離れたところにある樹の小枝に向けて槍を伸ばしてみた。

槍は高速で伸びて狙った小枝を切り裂く。次の瞬間、槍の長さを戻し、違う小枝を狙って同じことをする。何度も繰り返していると手頃な小枝がほとんど無くなった。

『これは使える。一種の飛び道具みたいなもんだな。槍を扱う技術が要らないもんな』

槍の長さが7メートルで、石突から1メートルぐらいのところを握っているから、実際の射程は6メートルほどか。獣を相手にするのに、実戦経験のない俺にとっては便利この上ない武器だ。

『後は威力だな。さっき狼を貫いていたように思うんだがどれくらいの威力があるのか?』

そこで今度は樹の幹を相手に槍を打ち出すことにした。

そう、この槍は突くのではなく、打ち出す攻撃ができる槍だった。

いきなり太い樹を相手にして槍の穂先を痛めるのは嫌だったので、まずは人間の手首位の太さの枝を狙う。槍は簡単に枝を砕いて突き抜けた。

次はもう少し太い枝を狙う。こうして徐々に太い枝や幹に向かって槍を打ち出してみたが、樹ではこの槍を止められないことが分かった。

この槍の穂先は、何の抵抗もなく簡単に樹を貫通するだけでなく、穂先が当った瞬間に軽い爆発を起して対象を破壊していることも分かった。

『なるほど穂先の硬さだけで対象を破壊してるんじゃないんだな。これなら熊あたりが出てきても大丈夫かもしれない』

槍の基本的な性能が分かると、次の疑問が出てきた。

『槍術の次に、剣術ってあったな』

そう思ったら手の中の槍が剣に変わった。吃驚して剣を落としそうになったが、剣は掌にくっついていて落ちなかった。

気を落ち着けて、手に持っている剣を眺める。

刀身は1メートルほど。重さはほとんど感じない。だが、剣の使い方なんか知るわけがない。少し振り回してみたが、かなり練習しないと使いこなせないことが分かった。

『次は何を試そう。喉が乾いてきたし、命の水というのはどういうものだろう』

剣を消して、なんとなく感じたままに水を掬うような形で左の掌を上に向けると、その掌に水が湧き出した。水はじっくり湧き出してきたが、それでもすぐに掌から溢れてボトボトと下へこぼれ落ちる。

俺は慌てて掌に口を近づけて水を飲んでみる。

『美味い。こんな美味い水は飲んだことがない』

そう思いながらゴクゴクと水を飲んだ。

「なるほど、命の水というだけはあるな」と俺は感心したように呟いた。

『これは魔法か?ということは、俺は魔法を使っているのか?じゃあ次は、命の炎か?』

俺は再び掌を上に向けて『命の炎』と念じた。

すると掌の上に小さな炎が現れた。

しばらくそのままにしていたが、掌は熱くない。

『この炎で何かを燃やせるのか?』

そう思いながら、槍の訓練で切り落とした小枝を拾って炎の中に突っ込んでみると、小枝はすぐに燃え出した。

『なるほど、これで水と火には困らないってわけだ。ラッキーと言っていいだろう』

そうこうしているうちに腹が減りだした。

『何か食べるものは?』と思って見回すと、さっき殺した2匹の狼が目に入った。

『ちょっと嫌だがあれを食うか』

俺はそう考えて狼の死体に近づいた。

『どうやって食う?』

左手にナイフをイメージすると刃渡り30センチ位の大型のナイフが現れた。

そのナイフで狼の脚を根本から切り落とし、皮を剥いだ。ナイフは、利き腕ではない左手でしか使えない上に、獣の皮を剥ぐことなんてやったことがないから皮はボロボロになったが仕方がない。

次に、槍の練習であっちこっちに散らばって落ちている枝や裂けた幹を集めてきて、命の炎で火をつけ、狼の脚を焼く。しばらくすると肉の焼けたいい匂いがし始めた。塩がないから美味くはないが、腹が膨れるまでたっぷり食った。

狼の脚にかぶりつきながら、『そういえば狼の1匹は槍で殺していたけど、もう1匹はどうやって殺したんだ?』と疑問が湧いてきた。

疑問を解決するため、もう一度ステータスをチェックする。

『う〜ん、皇帝像の右腕のところに巨岩拳というスキルがあるな。Lv1になっているということは、殴り殺したのか?』

と、今度は自分の右手を見る。右手を握ったり開いたりしながら、

『巨岩拳というからには、この右手は大きな岩に変わるということか?』

と思ったら、その瞬間に右手が小さな岩のように大きくなった。直径が50センチを超える岩になっている。しかし、指があるし、手の感覚もあるので、岩になった拳を開いたり閉じたりしてみた。

『そうか、この拳で殴ったのか?で、どれくらいの威力があるんだ?この岩の拳は?』

そう思いながら近くの樹を軽く殴ってみた。

メキッという音がして10センチ位の太さがある樹が折れた。

「へっ?」と俺は間抜けな声を出した。

本当に軽く殴っただけなのに。しかも拳にはほとんど何の衝撃もなかった。それなのに、そこそこの太さの樹が折れている。

今度はもっと太い樹のところへ行って、やや力を入れて幹を殴ってみた。

バキッという鈍い音がして、太い幹が大きく窪み、その周囲が半分ほど裂けた。

相変わらず俺の拳には何の衝撃もない。もちろん痛みなんてないし、拳が重いという感覚もない。

『これも結構使えるな。しかし、手の大きさを変えないで、普通のままの大きさの拳で殴ったらどうなるだろう?』

手を普通のサイズに戻し、手を痛めないように手加減をしながら樹を殴ってみると、それなりに威力があり、幹が抉れていた。

今度は、再び手を大きな岩に変えて樹を殴ってみると、またバキッという音とともに、かなり太い樹が折れた。

『なるほど、これが巨岩拳ってわけか』

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