皇帝像の右腕、女神像の左腕

肩ぐるま

第1話 俺って、人間じゃなくね

そこには数柱の神々が集まっていた。

「▲◎▼※■の守護神像だったアメネスの女神像は左腕しか残っておらぬ」

と、一人の神が呟いた。

「それを言うなら、皇帝コルベヌの神像も右腕しか残っておらぬ」

と、もう一人の神が呟いた。

「問題は、この2つの腕をどう活かすかじゃ」

「誰かに与えるのはどうじゃ?」

「ふむ、男女一人ずつ選ぶか?」

「それも良いが片腕だけでは、それほど強力ではないぞ。いっそのこと一人の人間に2つとも与えてはどうじゃ」

「この両腕を、一人の人間に与えるのか?」

「幸い、左右の腕が揃っておる」

「ふむ、この腕を両方持てばかなり強力ではあるな」

「しかし、アメネスとコルベヌは仲が良くなかったのではないかな?」

「うむ、奴らは事あるごとに争っておったな」

「そんな奴らの腕を一人の人間に与えたらどうなる?」

「いや、むしろ別々の人間に与えた方が困ったことになるだろうな」

「その二人は争うということか?」

「間違いあるまい」

「ならば、一人の人間に与えてしまえばどうなる?」

「未知数じゃの」

「ふむ、儂も検討がつかん」

「しかし、争いは起きぬだろうな」

「争いたくても争えぬな」

「ならば、その方が良いか?」

「まあ、ものは試しじゃ」

「それならそろそろ始めるか?」

「うむ、先程死んだ男の魂がやってきた」

「この魂でよかろうか?」

「よいのではないかな」

「では、始めよう」


神々のそんな呟きが一人の男の運命を決めた。


俺が目を覚ましたのは森の中だった。

『う〜ん、どうしたんだ。車に跳ねられたんじゃなかったのか?』

俺は直前に起こきた出来事を思い出そうとしたが、思い出そうと努力すればするほど記憶が輪郭を失っていき、結局、何も思い出せなかった。

『うん、俺は誰だっけ?だめだ、名前も思い出せない。これは、記憶喪失か?頭を強く打ったせいか?やっぱり車に跳ねられたのか?』

ぼんやりと考えていた俺は、グルルという獣の唸り声に我に返った。

唸り声のした方を向くと犬、いや狼のような獣が2匹こちらを見ていた。

俺は吃驚して声を上げようとしたが、口がパクパクするだけで声が出なかった。

そんな俺に、2匹の獣はニヤリと笑って、いや笑ったように見えただけだが、次の瞬間に襲いかかってきた。

俺は、思わず目をつぶって、しゃがみこみ、とっさに両腕で頭を庇った。

両腕が噛み砕かれる。恐怖で目を開けられないまま、襲いかかる痛みを待ったが、いつまで経っても両腕に痛みは来ない。

恐る恐る片目を開けた俺に見えたのは、白い槍に頭を貫かれて目の前にぶら下がっている一匹の狼。

『何が起きた?』

驚いた俺は、唖然としながら目を見開いて死んだ狼を見つめた。

そして、すぐに思い出した。

『狼は2匹いたはずだが?』

視線を少し動かしてみると、俺から数メートルの距離にもう一匹の狼が倒れていた。

『何があった?それに、この槍は誰の槍だ?』

そう思いつつ、視線を槍の穂先から根本へと動かすと、その槍は俺の手に握られているのに気付いた。

『俺が槍を?』

そう思った瞬間、槍が消えて狼が俺の足元に落ちた。

その狼を見下ろすと同時に、自分の体が目に入る。

『うぉ、素っ裸じゃないか。服はどこへ行った?』

パニックになりかけところに、白と黒の鎧が現れて俺の体を包んだのが見えた。

「へっ」

間の抜けた声を上げてしまう。

落ち着いて自分の体を見下ろすと、西洋のフルプレートアーマーのようなものを着ている。

『どうなってるんだ、これは?』

そのとき、視界の隅に文字が見えた。

『何だこれ?』

文字に視線を向けると、文字が目の前に移動して読めるようになった。


名前 コルベメネス

素材 人間の魂 皇帝像の右腕 女神像の左腕 

特徴 人間

性別 男


『名前が、コルベメネス?それはいいが、素材って何だ?特徴が人間ってどういうことだ?俺は人間じゃないのか?』

『この表示からすると俺は、人間の魂と女神像の左腕と皇帝像の右腕から合成された何かじゃねえか?』

『ホモンクルス?人造人間?』

確かに、俺は一度死んだ気がする。

『それじゃ何か?アニメに出てくる悪の組織とやらによってサイボーグに改造されて生き返ったのか?』

『うん、表示はまだ続きがあるぞ』


攻撃スキル

皇帝像の右腕

拳術

巨岩拳 Lv1

虚空拳 Lv0 


女神像の左腕

槍術

突き技 Lv1 

虚空突き Lv0

剣術

斬撃 Lv0 

虚空斬撃 Lv0


防御スキル

皇帝像の鎧 Lv1

女神像の鎧 Lv1


魔法

皇帝像の右腕

次元操作 重力操作  

女神像の左腕

命の水 命の炎 魔法陣


「何だ何だ?次元操作?重力操作?魔法陣?凄そうな魔法が並んでいるな」

『本当に使えるのか?』そんな疑問が浮かんだが、

「それはそれとして、命の水とか命の炎ってのもあるな。こっちは平和そうだし、便利そうだな」

「うん、鎧が2種類もある。女神像の鎧と皇帝像の鎧か。すると俺が今着ているのがその鎧なわけか」

俺はそう呟きながら自分が着ている鎧を見下ろす。鎧は体の中心から左側が白、右側が黒のツートンカラーになっている。

『これはどういうことだ?左半分の白い鎧が女神像の鎧で、右半分の黒い鎧が皇帝像の鎧というわけか?分かったような分からんような?いや、訳が分からん』

俺には、自分の着ている鎧が、なぜ縦半分で分かれているのか理解できなかった。

『まあ、色が半分半分に分かれているけど、これで裸ではなくなったわけだよな。この格好で歩けるのかな?』

俺は少し歩き回ったり、しゃがんだり、飛び跳ねてみたりして、

「うん、動きの邪魔になるわけじゃないな。走れるかな?」

と呟き、走ってみたが特に走りにくいということもなかった。

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皇帝像の右腕、女神像の左腕 肩ぐるま @razania6

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