⭐︎1の方が幸せだった

桜雪

⭐︎1の他が幸せだった〈古賀コンver〉

 私の職場の地獄では、新たな取り組みとして優良店なのに低評価の星をつけ、店を倒産へと追いこんだ亡者たちを、レビュー地獄へ堕とす試みを始めた。

 閻魔大王様は良いアイデアだと思いつかれるのは良いのだが、こういう地獄を作るぞ! と決めたあとは我々、鬼任せにするのはやめてもらいたい。

 上級鬼たちは新たな地獄が出来るたび、運用と方針に、うんうんとうねり、我ら、下級鬼が八つ当たりの対象となっている。

 さて、私はそんな下級鬼なのだが、『歩く狂気』と言われている。なぜか、と聞かれたら、自分のうっかりで亡者を必要以上にいたぶってしまうからだ。

 地獄の竈で亡者を必要以上の温度で、ぐつぐつと煮込んでしまったり、人間からみたら鬼の棒だと言われる棒で多めに叩いてしまったり。これに関しては『もっと叩いてくれ!』と言ってくる亡者がいて、鬼の私でもドン引きしてしまった。

 まさに鬼の目にも涙というやつだ。

 そんなドジッ鬼に当てられた私の任務が、このレビュー地獄だった。

 まず、鬼たちはそれぞれに星を持っている。

 5人の鬼たちがひとりずつ、1点を持ち、星が満点5つ貯まれば、また輪廻転生が出来るかもしれないチャンスを亡者は得る。しかし、星が0になってしまえば、今よりも更に拷問が厳しい地獄へと堕ちる。

 判断としては低評価レビューをした亡者が、前世で低評価をつけていたが、自分はこんなにいい行いをしてきたんだ! という話を聞いて、我ら、鬼が評価を下すシステムだ。本来、担当だった先輩がデートで有給をとった為、代打として、普段は関わることのない地獄の階層で、私が亡者の評価をすることになってしまったのだ。

 私はレビュー地獄の一室に入る。星4の亡者なので、私が点数を入れたら、亡者は晴れて、輪廻転生の輪に入れるかもしれない。

 亡者との部屋は、人界でいう刑務所のようにガラスで仕切りがされている。ガラス越しにみえる亡者の足元の床は開いており、赤いまぐまが煮えたぎるなか、亡者は足を入れていた。

「鬼様! 私をどうか、星0にしてください‼︎」

 自分からもっと過酷な地獄へ向かいたいとは、立派な精神だが、私が星をなくしても、星3になるだけで変わりないだろう。

「えっと。田中さんでしたっけ」

 私は前の星担当の鬼から貰った引き継ぎ書を読む。彼は過去、自分が馬鹿にしていた兄がラーメン屋を開き、その店が繁盛したことが気に食わなかった。

 そこで、レビューサイトに仲間たちにも声をかけ、ラーメンに髪の毛や蝿が浮かんでいたなどの嘘を書き連ねて、兄の店を閉店に追いこんだ。兄は店を開店させたときの資金が借金となってしまい、今も昼夜、休まずに働いて返しているらしい。

 その後、弟だった亡者は車の事故に遭い、こうして地獄に来た。

「兄さんには本当に悪いことをしたと思っているんです」

 亡者が目に涙を浮かべつつ、口にする話に不覚ながら、鬼の私も感動してしまった。

「あなたがよく反省していることは分かりました! 私が評価すれば、あなたには輪廻転生の道が開かれます‼︎」

「あ、ありがとうございます!」

 私が評価ボタンを押したのをみると、急に亡者の顔色が変わる。

「馬鹿な鬼たちだ! あんな兄貴に俺が謝りたいと思うわけないだろ……」

 亡者が全てを言い終える前に、足元までだったマグマが彼がいる部屋全体を真っ赤に覆いつくす。

「あっ、すいません! うっかり、操作ミスをして、星0にしてしまいました。まぁ、亡者さんも望んでいたことですし。今回は私のうっかりミスじゃないですよね」

 茹で上がった亡者はまた、生き返り、星が0になったことで、より酷な地獄に堕とされるだろう。

 あとから、先輩に聞いた話では、星1の拷問の方が幸せだったということで、レビュー地獄の亡者たちは必死に1からは堕ちないように、頑張って、もがいているらしい。

 レビュー地獄にいる先輩に用があるため、顔出したところ、何故か亡者たちには怯えられてしまった。

 今まで自分たちも低評価ばかりをつけてきたが、私より酷い評価をつけたことがないとのことだ。ひどい話である。

 このレビュー地獄も、先輩曰く、亡者の話を聞くのが面倒だということで、早々に廃案となることだろう。




 私はいつものように、釜の温度を間違え、亡者を打つ回数を間違える。そんな地獄での日々を淡々と過ごしている。

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