第56話 脅威の成長②

 これが【自業自得】による身体強化本来の力か。


 確かに凄まじい。

 スピードだけなら、あの時のシェリアよりも上だ。

 まるで戦えなかった、あのシルフィードとは思えない動き。


 思えばシルフィードもかつては【|狂暴な鬼人《バーサクオーガ】に入団していた身。正しく力が使えれば、トップギルドに入れるくらいの力は持っていて当然だ。


「本当に悪い事はしてないみたいだな。」


「まあ、今はシェリアが家にいますからね。僕が稼がないと、無一文なもので。」


 ああ、俺が800万奪ったからか。

 なんかこう……更生しているシルフィードも見てると少しくらい返した方がいいのかもしれない気がして来た。


 シェリアも反省してるなら、少しは返そうかな。


「シェリアは何してるんだ?」


「本を読ませてます。誰かと勝負したがるあの性格はもうどうしようもないので、戦闘以外の方法に出来ないかなと思って。」


「それって大丈夫か?暴れそうなもんだけど……」


「いえいえ。流石に懲りてますよ。それに謹慎中に暴れて永久追放にでもなったらそれこそ誰とも戦えませんから。」


 誰ともって……それって魔物の事だよな。


「くれぐれも人と戦わない様に言い聞かせとけよ。」


 シェリアはともかく、まあシルフィードはそれなりに改心してるみたいだ。

 今のこいつなら会話も出来るし、少しなら信頼も出来る。


 さて、何はともあれ俺たちは現在進行形で魔物の群れに追われている身。

 こんなにダラダラと会話をしている余裕はない。


「シルフィード。【神出鬼没】で逃げたいんだがもし魔物でも引き連れて行ったら大変だ。少しだけでいい。引き離せるか?」


「あー……僕、接近戦専門なんでちょっと厳しいかもしれませんが……やってみます。」


 あまり自信はなさそうだ。

 それも当然、遠距離攻撃手段がないのに引き離せなんて無理難題。

 それでもやろうとはしてくれているが、たぶん無駄になるだろう。

 晴太が出て来てくれたら、どうとでもなるのに……


 そんな淡い期待を向けて雨太を見ていると、目が合った。

 雨太は少しもじもじしていたが、意を決して様に顔を上げて言った。


「あ、あの……僕がやりましょう…か?」


「……出来るのか?」


「た、たぶんですけど……僕も成長したので。」


 あの雨太が自分から何かをやると言い出すとは珍しい事もあるもんだ。

 シルフィードもあれだけ成長してた訳だし、面白い。

 お手並み拝見といこう。


 俺はこれから何かをしようとしている雨太を見守りながら、いつでも逃げられる様に【神出鬼没】の準備を整える。

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