第49話 星

 無事10階層を突破した俺たちだったが、その先の階層は苦難の連続だった。


 まず、敵が強い。

 まあこれは当たり前といえば当たり前なのだが、一体一体のレベルが上がっている。

 俺たちはスキル的に、2人揃って前衛が向いていない。

 俺は前衛というよりも適度な距離を保ちつつヒット&アウェイが理想的なスタイルだし、金川に至っては思いっきり後衛だ。


 あと1人、敵の注意を惹きつけられる様な、そんな頼れる前衛が加わると楽なんだが……


 地上への帰還後、そんな考え事をしながら歩いていたせいで前が見えておらず、俺は人とぶつかってしまった。


「おっと…すみません、不注意で。」


「いいよいいよ。ちゃんと前見て歩けよ。」


 ぶつかったおじさんは優しく許してくれた。

 おじさんに言われた通り前を向こうと顔を上げる。

 するとそこには人だかりが出来ていた。


 え?いつの間に??

 俺はこれに気付かなかったのか??


 吸い込まれる様に、どんどんと人が集まって行く。まるで取り憑かれているみたいだ。


 これは一体何の集まりだ?


 気になった俺は、さっきぶつかったおじさんに尋ねる事にした。


「すみません。これって何の集まりですか?」


「何だ、お前知らねえのか?キララだよ、星川キララ。あの子を一目見ようと集まってる訳さ。ほら、あそこだ。」


 おじさんの指差す方向を見る。

 するとそこには100人に聞けば100人が可愛いと答えるであろう美女が、笑顔で手を振っていた。


 金色に染めた長髪に、吸い込まれそうな大きな瞳。

 幼さを残しながらも成熟した妖艶な肉体。

 あまりの美しさに目を奪われてしまう。


 星川に見惚れている俺を見て何故か自慢気に微笑むおじさん。


「どうだ?凄えだろ。」


「……今までアイドルに興味なかったんですけど、あんなに可愛いものなんですね。」


「馬鹿言え、星川キララが特別なんだよ。歌って、踊って、戦えるアイドル。それが星川キララだ。」


 歌って、踊って、戦えるアイドル。

 星川キララか……


 彼女の移動と共に散っていく人混み。

 俺はただその場から一歩も動かず彼女を見ていた。


 そしてすれ違った一瞬、彼女と目が合った気がした。


 って、俺がずっと見てたから合っただけだろ。そもそも勘違いかも知れないし……

 はぁ……俺、何やってんだろ。きっと疲れてるんだ。さっさと家帰ろ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 次の日、ギルドに来た俺は唖然とした。


 にやけ面の斗真が、自慢げに俺を見る。


「おい!来るのおせーぞ。なんと……このギルドに新人が入った。その名も——」


 斗真の隣に立つ女性が、軽く会釈をしながら挨拶をする。


「星川キララでーす。よろしくね♡」

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