第44話 対価
【シェリアサイド】
「あーあ、探しに行かなきゃ駄目だよね〜。どこまで飛んでっちゃったかなぁ。……それにしても、案外弱かったな。期待し過ぎちゃってたのかも。」
進を探しに行こうとしたその時、背後から気配を感じ取る。
慌ててスキルを発動し、防御の構えを取ろうとした。
「スキr———」
(駄目だ。間に合わない。)
ただの蹴りだが、体格の差がある。
両手を挟んで衝撃は抑えたが、私は勢いそのままに飛ばされてしまった。
「いったぁ……私にいきなり攻撃して来るなんていい度胸……って進!?」
そこにいたのは進だった。
服はボロボロで体中の至るところから出血している。左腕はだらーんと下がっており、力が入っていないように見える。
「お前、少しは加減しろよ。」
満身創痍の進を見て、私は興奮が増した。
「すっごーい!さっきの耐えたんだ!やるじゃん。よーし、まだまだ楽しめそうだね♪」
渾身の一撃を耐えた存在。
そんな人物に出会えたて絶賛大興奮中の私に、進の声など聞こえていない。
戦いたい。
ただそれだけが頭の中を埋め尽くしている。
「じゃあもう一度、猛虎翔掌……あれ?」
もう一度、必殺の一撃を打ち込もうと構える。しかし、体に力が入らずオーラは出ない。
「はぁ…本当に戦う事しか考えてないんだな。右腕、見てみろよ。」
進に言われ、指された右腕を見る。
ない。ある筈の右腕が、付け根からごっそりとなくなっている。
自覚した瞬間、激痛が襲ってきた。
堪らず私はその場に崩れ落ちる。
「一体、何したの?」
「何って…スキルだよ。お前の右腕を飛ばした。あそこにな。」
指さされた岩陰には、綺麗に切断された私の右腕と、進のナイフ。
「進のワープに…そんな力は……なかった。」
「昔は、な。俺も成長してるんだよ。特定の条件を満たせば、部位だけを飛ばすこともできる。」
完敗だ。
不意打ちをして、負けた。
スキルも看破したと思ってたのに、それすらもブラフとして利用された。
「まさか私が負けるなんて……進って強いんだね。それにしても、どうやったの?右腕を落とした方法、気になるんだけど…」
「秘密だ。恨むなよ。仕掛けて来たお前が悪い。」
「別にいいよ。腕くらい、後でくっつけて貰うし。……能力は教えてくれないんだ。」
「当たり前だ。お前みたいに襲って来る奴がいるのに、わざわざ自分のスキルを晒すか。同じギルドのメンバーでもあるまいし。」
進はそう言うと落ちてるナイフを拾い上げ、最後に倒れていた私を背中に乗せた。
「……置いてかないんだ。」
「あのなあ。今のお前をこんなとこに置いてったらモンスターにやられるだろうが。」
「でも私、また進を襲うかもよ?っていうか絶対襲うけど。」
「少しでも恩を感じたならやめてくれ。もし、どうしても戦いたくなったらせめてちゃんと決闘を挑め。こんなダンジョンで命のやり取りする必要ないだろ。相応の対価さえ払ってくれたらいつでも受けてやる。」
「ふ〜ん。そっか……また戦ってくれるんだ。対価ってどんな?」
「金だ、金。金を持って来い。」
「うわ〜。守銭奴だぁ。そんなんじゃモテないよ。」
「余計なお世話だ。言っとくけど、通報はするからな。落とし前は取ってもらうぞ。」
「わかってるよ。だからさ、最後の会話くらい楽しくしてよ。」
「一瞬で着くからそんな暇はない。」
あーあ、断られちゃった。
進の背中に乗ったまま、ちょっとした浮遊感の後、一瞬で視界が変わった。
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