第41話 悪癖

 【ダンジョン9階層】


 目の前では13体のモンスター相手に、シェリアが蹂躙している。

 シェリアの武器はシルフィードと同じく拳。シルフィードとの相違点は、威力を高める為にメリケンサックの様な手甲を装備している点だ。


 俺はそんなシェリアの戦いぶりを、少し後方で観察していた。


 強いな。

 俺や金川よりも遥かに上だ。

 戦闘スタイルがあまりにも違うが、身のこなしは晴太よりも上。あの時の斗真に迫るものすら感じる。

 9階層のモンスターでも、雑魚だと言わんばかりの奮闘っぷりだ。


 なんて考え事をしている間に、全てのモンスターを倒し終えたシェリアが、こちらに歩いて来た。


「お疲れ様、流石だな。」


「まーね。この程度ならスキルを使うまでもないよ。」


 スキルを使ってない状態でこの力。

 流石はランク5ってところか。


 ダンジョン探索をする場合、ランクが近い者同士で行く事が鉄則だ。

 理由は単純に階層によってモンスターの強さが違うから。

 上の者に合わせてしまえば、下の者は力不足で死んでしまう。かと言って、下に合わせると上の者は大した経験値稼ぎにもならず、ただ時間を無駄に消費してしまうからだ。


 それにしても少し疑問がある。

 なんでシェリアは俺なんかとダンジョンに潜りたがったんだ?

 普通は他ギルドの、それも格下の冒険者なんかデメリットしかないと思うが…


 考えても、答えは出ない。


 そして推測通り、シェリアが一緒にダンジョンに行きたがったのには理由があった。

 それはシルフィードが進を『狂暴な鬼人バーサクオーガ』連れて来て、先に帰ってしまった後の出来事だ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 シェリアは兄であるシルフィードを何とか追い返した後、ギルドマスターである鎧武に詰め寄っていた。


「言いったよね!バカ兄貴が来たら追い返してって!どうせ私をここから脱退させようとしてるだけなんだから。」


「まあまあ落ち着けって。仮にも元ギルメンだぜ。話くらいしてえじゃねえか。それに妹想いないい兄貴じゃねえか。……ちょっと行き過ぎてる感じはあるが。」


「そのちょっとが嫌なの!マスターは私のこと、厄介払いしたいだけじゃん。わかってるんだからね。」


「わかってんだったらギルメンに喧嘩売るのやめろ。大変なんだぜ。修繕費とか…」


 鎧武がシェリアを厄介と言っていた理由はただ一つ。シェリアが戦闘狂だからだ。

 自分が興味を持った相手とは、どんな手段をとってでも戦おうとする悪癖。

 相手がその気になるまで、しつこく追い回す。多少強引にでも、決闘を始めてしまうのだ。

 なんとか路上でやるのを改善させたはいいものの、ギルド内で暴れ出す機会が多くなり、シェリアが来てから狂暴な鬼人バーサクオーガは何度も建て直した。

 大手ギルドなのに本拠地ギルドが一軒家っぽくなっているのは、改築しすぎて金がないから。男前気質というか、シェリアを子供扱いしている鎧武は、彼女に修繕費を要求できずにいる。


「お金は私の給料から引いていいって言ってるじゃん。」


「そういう問題じゃねんだよ。ハァァァァァ……俺んとこにも、進みてえな冒険者来ねえかなぁ。こんな荒くれ者ばっかじゃ気が滅入るぜ。」


「進?それってさっき、バカ兄貴が連れて来てた冒険者?あんなのがうちに入れる訳ないじゃん。どう見ても弱そうだし。」


「お前、知らねえのか?あいつ叡智の女神ソフィアデアのランク4冒険者と決闘して、圧勝した男だぞ。お前もそんなんだと、足元掬われるかもな。」


 鎧武のこの発言が決め手となった。

 この発言のせいで、進に興味を持ったシェリアは、どうにかして進と戦えないか機会を伺っていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そして偶然ではあるが今現在、真夜中のダンジョンに二人っきり。

 周囲に気配はない。

 今が絶好チャンスだ。


 (さあ、どうやって決闘を始めようかなぁ。)


 獰猛な目つきで、シェリアは肉食獣のごとき眼差しで、進の背中を捉えていた。

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