第39話 方針

 結局リザードマンとシルフィードの戦闘は、終始リザードマンが圧倒していて勝負にならなかった。

 シルフィードのやった事はといえば、ただ拳を構えて待ち続けるだけ。

 構えや型なんかは様になっているが体がまるで追い付いていない。そんな感じだった。


 俺は少し離れた位置で座り込んでいるシルフィードの元に向かう。

 あの時の言葉の意味が気になっていたから。


「シルフィード、お前何か隠してないか?さっき駄目かって言ってたよな。あれはそういう意味だ?」


「いや…その〜、最近なんでかスキルを使うと力が抜けちゃうんですよね。前まではそんな事なかったんですけど……」


 スキルを使うと力が抜ける?

 そんな事あるわけ……いや、ありえるか。

 俺のスキル【三進二退】も普段はデメリットしかない力だ。

 しかしその分ランクアップ時に得られる力は強大。あいつの【自業自得】も同じようなものなのかも知れない。


【自業自得】

 その名の通り、良い行いをした者には相応の強化が与えられ、悪い行いをした者には相応の退化が行われる。

 昔のシルフィードならいざ知らず、ここ最近のシルフィードは妹の事を思うあまり他人に迷惑をかけ続けている。

 弱くなるのは当然だ。


「それがお前のスキルのデメリットってとこだろ。スキルは何も便利なものばかりじゃない。まずは良い行いをするとこから始めるしかないな。」


「そんなぁ…早くシェリアを連れ戻したいのに…」


 シルフィードが地面に膝をつき落ち込む。


 俺の推測が正しければ、シルフィードの日頃の行いを正せば力は元に戻る筈。

 ボランティアでもさせてみるか。

 街の人達にも感謝されるし、ギルドの名も宣伝できる。

 我ながらいい案だ。


 俺たちから少し離れた所で、リザードマンの相手をしていた金川を呼び戻す。


「シルフィードの実力は大体わかったからギルドに戻ろうと思うけど、金川はどうする?」


「そうね…もう少しでランクアップしそうだし、私は残るわ。」


 金川は現在レベル19。

 19レベルになってからもう1週間くらい経っている。レベルアップするならそろそろだ。


「わかった。下層でやるなら俺も手伝うぞ。」


「2階層くらいでやるから大丈夫よ。無茶はしないわ。あんたと違ってね。」


 嫌な言い方をする。

 ジェネラルゴブリンの件、まだ怒ってるな。別に俺だってあんな事態になると分かってたら最初から行ってないっての。


 まあ、2階層なら問題ないだろう。

 俺も1人でやってるし、あそこなら安心だ。


「そっか。じゃあ2階層まで送るぞ。」


 シルフィードはボランティア、金川はレベリングか。

 2人の今後の方針は固まって来てるな。

 俺も早く借金を完済して、下層の探索でも進めなきゃな。

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