三進二退~3歩進んで2歩下がる？レベルアップは遅いけどランクアップボーナスで無双します。

第34話 厄介者

　時刻は午前6時。

　太陽は上りかけているが、まだ少し薄暗いこの時間帯に、俺は外を歩いていた。

　普段とは違い、人が少なく涼しい風が吹く街並みを進んで行く。

　(あー、疲れた。ったく、あいつら弱いくせに数だけはいるんだもんな。)

　ゴブリン狩りを続けていると、予想以上に時間がかかってしまった。

　疲れからか、ボーッとしながらただ歩いてたが、これが意外にも癒されてる気がする。

　そういえば、ここ最近変化があり過ぎたせいかこうやって気を抜く暇もなかった。

　冒険者稼業は好きでやってる事だけど、たまには何も考えない時間も必要だな。

　そんな事を考えながら静かな街を歩いていると、バタンと何かが倒れる大きな音がした。

　音の方向に目を向けると、そこには20歳くらいの金髪碧眼の眼鏡をかけた青年が倒れ込んでいる。

　その青年は、小さな声で呟いた。

「なんで……なんでだよ、シェリア。」

　(なんだ？こんな朝っぱらから揉め事か？)

　ぱっと見、青年は一軒家の前で押し倒された様になっていて、恐らくだが追い出された感じだろう。

　玄関先では女性が仁王立ちで家の中には入れないと言わんばかりに立ち塞がっている。

　おおかた、彼女と喧嘩をしたってところか。

　イケメンだし、優しそうに見えるがあんな優男でもフラれる事あるんだな。

　その場をそっと立ち去ろうとした時、青年と目が合った。

　何故か青年は俺を見ると目に涙を浮かべながらこちらに向かって来る。

　うわぁ…なんか、面倒ごとに巻き込まれそうな気がする。

　◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

　【ギルド『銀狼の牙』】

「それで…僕は弱いから要らないって……でも、あそこには妹が居るから……妹だけは取り返さないと…」

　泣きながらそう話す青年。

　俺と斗真は冷めた目で青年の話を聞き流しつつ、小声で話していた。

「おい、なんであんな奴連れて来た。あの話、もう何回目だと思ってんだよ。」

「勝手に着いて来たんだよ。帰れっつっても全っ然言うこと聞かねえし…こっちがどうにかして欲しいくらいだ。」

　青年の話によれば、彼は冒険者で、彼女に捨てられた訳ではなくギルドを追放されたらしい。

　理由は単純で、弱いから。

　青年が所属していたギルドは『狂暴な鬼人（バーサクオーガ）』。

　荒くれ者が集う戦闘特化型ギルドとして有名だ。性格には難ありと言われているがその実力は本物。

　スキルなしのステゴロ勝負であれば、最強は狂暴な鬼人（バーサクオーガ）だろうと言われている。

　追放された事自体は彼にとってどうでもいいらしいのだが、問題は妹が残っている事。

　彼は妹と2人で海外から来ていた。

　たった1人の肉親で、どうしても一緒に居たいそうだ。しかし彼の妹は強く、ギルドは妹を手放す気がないらしい。

「お願いします！どうか妹を……妹を助けて下さい！あんな厳つい男しかいないギルドに妹1人置いていったらどうなるか……」

　まあ確かにあのギルドなら不安になる気持ちもわかるけど……関わりたくねぇ。

　目配せすると斗真は当然、金川も微妙そうな顔をしていた。

　所詮ギルドを抜けるかどうかなんてのは個人の問題だ。

　妹が抜けたいなら本人が言えば辞められるし、それでも抜けられないなら管理組合にでも行けばいい。

　つまるところ、俺らが関わるべき問題ではないのだ。頼る相手が違う。

「悪いが他を当たってくれ。」

　冷たくそう言い放つと、最初は粘った青年も次第に元気を失い、遂に諦めた。

「失礼しました。……そうだ。最後にお名前だけでも教えてくれませんか？」

「銀狼の牙（フェンリルファング）、前山進だ。まあなんだ、本当にどうしようもなくなったら、付き添いくらいはしてやるから元気出せよ。」

　組合への付き添いくらいなら、まあいいだろう。

　あまりに落ち込んでいる青年を見て、つい口走ってしまった。

　後に、この発言を後悔するとも知らずに。