第35話 厄介者②
【ギルド『
3日後、俺は何故かまた、あの一軒家の様な建物の前にいた。
ごく普通の、強いて言うなら少し和風な感じが漂う木造の家だ。
そんな家の前で俺と、俺を盾にする様に背後に隠れているあの青年は、チンピラ風のスキンヘッド男に絡まれている。
「おうおう。なんじゃワレェ。うちのギルドになんか用でもあるんかい。」
何故こうなったのか、話は30分前に遡る。
俺はいつも通り、ギルドにいた。
最近は早朝までダンジョンに潜っているので、ギルドで寝泊まりしているからだ。
家に帰るよりギルドで寝た方が睡眠時間が稼げる。
そんな理由から、俺はここ最近ずっとギルドにいるのだが、普段は誰も来ない午前6時という朝早い時間帯に青年は訪れた。
「今から一緒に来て下さい!」
(こいつ、つけてやがったな。)
ずっと視線は感じていたが、まあ俺みたいなダンジョンから朝帰りする冒険者は、一般人からしたら目立つものだ。
物珍しさで見てるだけだろうと放っておいたのだが、帰って来て即このタイミングで入って来るなんて見張ってなきゃ偶然が過ぎる。
「はぁ…後にしてくれ。ずっとダンジョンにいたから疲れてるんだ。」
「今じゃなきゃダメなんです!一緒に来てくれるって約束は嘘だったんですか?進さんは、約束も守れない平気で嘘をつく様な人だったんですか?」
こいつ…それを言われると弱る。
人として約束を破るつもりなんて全くないが、せめてもう少し時間を考えて欲しい。
ん?っていうかこの時間に組合って開いてなくないか?
そんな事を考えている間に、青年は俺を引っ張って強引に連れ出そうとする。
「ちょっ、待て!まだ組合も開いてないだろ!昼頃に出直して来い!そん時なら付き合ってやるから!」
「だーかーらー、今じゃなきゃダメなんだですって!いいから来て下さい!」
(こいつ…弱いと言ってたクセに、全然離れやしねえ。これでも結構力入れてんだぞ。)
意外にも、俺を引く力は強く、これではもう埒が開かないと判断した俺は、ついて行く事にした。
早く行って、早く帰ろう。
何も考えずついて来た結果が、今この状況に至るという訳だ。
「ちょっとこいつが話あるらしいんだけど……マスターに会えないか?」
俺は背後に隠れている青年を指差しながらそう言った。
「うん?お前は……シルフィードじゃねえか。って事はお前まだシェリアを連れ出そうとしてんのか?お前も頑張るねぇ。いいぜ、ついて来いよ。」
意外にも話は通じて、あっさりと中に通して貰えた。
見かけによらずいい奴っぽい。
それにしても、こいつシルフィードって言うんだな。
そういえば名前を聞いていなかった。
今まで名前も聞かず行動を共にしていた事を思い出しながら、俺たちはスキンヘッド男の案内の元、ギルドマスターが居るという部屋まで連れて行って貰った。
「マスター、失礼しますよ。」
スキンヘッド男がそう言いながら扉を開けると、そこに居たのは金色の髪も逆立てた厳つい風貌の男性だ。年齢は20代後半といったところか。
マスターにしては随分若い。
「返事待ってから開けろっていつも言ってるだろ。……ん?シルフィードじゃねえか。また来たのかよ。それにそいつは誰だ?」
「すみません。シルフィードの奴はいつもの要件っすよ。こいつは連れです。」
「ああ…そういうことね。それにしても連れか…。」
鋭い眼光で俺たちを睨み付ける。
その視線だけで目の前にいるこの男が、今の自分より格上の存在だという事を理解させられた。
「俺はこのギルドのマスターやってる
差し出された手を握り返す。
太く、分厚い掌だ。
一体どれほどの鍛錬を積めばこんな手になるのか……
「ところでシル。お前の用って、シェリアの事だよな。毎回言ってるがうちとしちゃ引き取って貰って一向に構わないんだ。説得は出来たのか。」
「いや…それが……その……」
ギルドマスターである鎧武は妹を連れ出して貰って構わないと言っている。
ん?どういう事だ?話が見えて来ない。
頭の中で考えていても無駄に時間がかかるだけ。俺は2人の会話に口を挟む。
「あの、こいつって追放されたんですよね?」
シルフィードを指差しながらそう伝える。
「ああ、そうだよ。うちのギルドに居続けるには、毎月決められたクエスト数をこなさねえといけねえって決まりがあんだ。こいつはそれを3ヶ月間達成出来なかった。だから追放した。契約書にも書いてあるぞ。」
渡された紙には確かにそう書いてある。
別に珍しい話じゃない。
大手ギルドは入団者が後を経たない。
ギルドに入る為には、それなりの条件が課せられるのは当たり前の事だし、長く居続ける為に条件を提示されているギルドも普通にある。
「じゃあその妹の説得ってのは…」
「こいつの妹…シェリアの奴は腕っぷしは立つんだがちょっと性格に難があって——っと、噂をすれば……」
鎧武が話している最中、突如としてギルドマスター室の壁が土煙をあげ破壊された。
煙の中から出てきた少女がこちらを睨みつける。
「また性懲りも無く来たの?この弱虫兄貴が。」
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