第29話 時間切れ

 時間切れ…だと…


 嫌な予感がする。

 一瞬とはいえ、さっきの竜巻でそれなりのダメージを負ってはいるが、ユニコーンはまだ生きているのだ。

 ここで晴太がリタイアなんて事にでもなったら……


 一縷の望みを賭けて、晴太の方を見てみると、そこには泣きそうな表情で助けを求めている人物がいた。

 今なら分かる。あれは雨太だ。


 今現在、雨太はユニコーンの目と鼻の先。

 見た目が同一人物なだけに、ユニコーンは晴太から受けたダメージの恨みを雨太で晴らそうとしている様子だ。

 このままだと間違いなくやられる。


 考えるより先に動いていた。

 俺はナイフを雨太の付近に投げると一瞬で飛び、自分の家までワープしようとする。


 ……が、失敗してしまった。


【神出鬼没】は発動している。

 だが、何かに弾かれるような衝撃に襲われ、気がつくと扉の前に倒れていた。


(は!?何で?)


 再び試すが、やはり弾かれてしまう。


 ワープ自体は出来ている。

 雨太のところには飛べたし、何の違和感も感じなかった。

 距離が遠いから駄目なのか?

 いや、スキルを作った段階で距離の問題は解決している筈だ。

 何か…何か他に原因があるはず。


 通常のダンジョンと、この10階層との違い。

 確証はないが一つだけ、思い当たる節がある。


(まさかとは思うが……ボス部屋の中だから、なんて事はないよな。)


 ボス部屋には特殊な仕掛けが施されていると聞いた事がある。

 一度入るとボスを倒すまで出られなかったり、部屋の中では治癒系統のスキルが使えなかったり、どれも冒険者にとって不利になる仕掛けばかりだ。


 10階層ではそういった話を聞かなかったが、ワープ系で逃げる事を封じられている、ありえなくはない。


 そうと分かれば取るべき行動は簡単だ。

 ワープは出来ずとも、普通に扉から出たらいい。

 俺たちは既に扉の前にいる。

 後はこの扉さえ開ければそれで逃げ出せる!


 扉を押し開けようとした。


 その時だ。


 雨太の声が聞こえた。


「進さん!手を引いて!!」


 今まで聞いた事のない雨太の声量に、俺は扉を押す手を引いた。


 次の瞬間、扉に電撃が走る。


 どうやらユニコーンが雷撃を放っていたようだ。


「ありがとう、雨太。助かった。」


「いえ。ご無事でよかったです。そんな事より…すみません。晴太がわがまま言ったばかりにこんな目に合わせてしまって…」


 全く持ってその通り…と責める気にはなれないな。

 そもそも俺も同意して来てる訳だし、こうなったしまったのは自業自得。

 晴太や雨太を責めるのはお門違いだ。

 なに、ボス部屋の中なら【神出鬼没】は使えるんだ。

 やりようは幾らでもある。


「気にするな。それよりもちょっと手伝って貰いたい事がある。」


「え?何ですか?僕に出来る事なら…」


 俺は作戦を雨太に耳打ちすると、ロングソード以外の武器を全て雨太に預けた。


「じゃあ、任せたぞ。」


「はい。進さんもお気をつけて。」


 そういうと雨太はユニコーンの元でもなく、扉の方角でもなく、ただただボス部屋の中を駆け回り出した。

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