第26話 ジェネラルゴブリン
あれは雨太……なのか?
雨太の変貌に目を奪われていると、口をパクパクし出し、何かを伝えようとしている。
「おっちゃん、後ろ、後ろ!!」
……ん?後ろ?……って、ヤベッ。
その声に反応して振り返ると、いつの間にか間近まで近付いていたジェネラルゴブリンの剣が目の前に迫って来ている。
クソッ、間に合うか…
ナイフを後方に投げ、即座に【神出鬼没】を発動する。移動距離はごく僅か、だがジェネラルの剣は空を斬り、俺に当たる事はない。
なんとかジェネラルの剣を回避する事には成功したが、とんだ失態だ。
クソッ、何年冒険者やってるんだよ!
戦闘中に敵から目を逸らさないなんて当たり前の事じゃないか。
そんな初歩的なミスを犯すなんて…雨太(?)がいなきゃ、死んでたぞ。
「なあ、おっちゃん。あのゴブリンさあ、俺がやってもいい?」
声の方向に目を向けると、そこにはいつの間にか俺の隣に来ていた雨太(?)の姿があった。
「別にいいけど……勝てるのか?お前、さっきまでビビってただろ。っていうかおっちゃんって……」
まだ22歳だぞ、俺。そんな歳じゃないと思うんだけどなぁ…まあ、こいつから見たら十分おっさんなのかも知れないけど。
「ビビってたのは雨太の方。俺は全っ然平気。モンスターと戦うの大好きだからさ。」
そう言うと雨太(?)は満面の笑みを浮かべ、ジェネラルの元へゆっくり歩み寄った。
「へへへ、ジェネラルゴブリンか…まあ、寝起きだしお前で我慢してやるよ。」
雨太(?)の体から炎が溢れ出す。
「行っくぜえ〜、炎の鎧を纏え!『フレイムメイル』!!」
雨太(?)の全身から炎が立ち昇る。
凄まじい熱気、近くのいるだけで火傷してしまいそうだ。
「ほら、かかって来いよ。」
挑発する雨太(?)。
ジェネラルは警戒しながらも少しずつ距離を詰め、間合いに入った途端に剣を振り抜いた。
横一文字に振られた剣が、雨太(?)の纏う炎に触れた。
次の瞬間、刀身は消えて無くなっていた。
「何だよ〜、これで終わりかよ。つまんねえの〜」
雨太(?)は再び歩き出す。
剣を失い目の前に立ち尽くすジェネラルに向かって、ポケットに手を突っ込んだまま歩いて行った。
おいおい、それは流石に無警戒すぎないか!?
仮にも敵はジェネラルゴブリン。
この8階層の中でも上位の強さを誇るモンスターだ。
そんな敵の前で隙を見せるなんていくら何でも……
そんな事を思いながら、ジェネラルを見ていると、ニヤリと口角を上げた。
不気味な笑みに、嫌な予感がする。
と思ったその時だ。
ジェネラルの懐に黒光するナイフが見えた。
先程の剣よりも明らかに上質。
しまった、そっちが本命か!
「ギャギャッ!!!」
「雨太!早く構えろ!」
俺の声が聞こえた雨太(?)はこちらを振り向くとにっこりと笑い、口を開く。
「だいじょーぶだいじょーぶ。」
雨太(?)の胸元にナイフを突き刺そうと踏み込むジェネラル。
さっき剣が溶けた距離になったが、まだナイフは溶けていない。
このままでは雨太(?)に刺さってしまうz
というところで、カランとナイフが落ちる音が聞こえた。
「ばっかだなー。ナイフが耐えれてもお前が俺の炎に耐えられなきゃ意味ないだろ。」
一歩ずつ近づいて行く。
それだけでジェネラルの体は溶け、消えてしまった。
「ね、だから言ったでしょ。大丈夫だって。」
ニシシと笑う雨太(?)。
あのジェネラルゴブリンをこんなにも容易く倒すなんて……
雨太だが、雨太じゃない。
この少年の正体は一体……
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