第25話 炎の少年

 迫り来る棍棒をバックステップで躱す。

 追撃も来るが、問題ない。


 ゴブリンは人型モンスターの中では最弱だ。

 小学生くらいの小さな体躯に痩せこけた肉体、性格は凶暴だが素の力が特段強いモンスターではないのだ。


 ゴブリンが厄介とされる理由は2つあり、その1つが武器を使う点だ。


 下っ端から木の棍棒、ボロボロのナイフ、刃こぼれした剣など、ゴブリン内での階級が上がるに連れて使用している武器は上質になって行き、ジェネラルともなれば新品同様のロングソードにフルアーマーの鎧といった人間と同等の装備をしている。

 それらの武器はダンジョン内で死んだ冒険者から剥ぎ取っていると見られているが、真相は不明だ。

 まあ、武器を使うと言っても所詮は冒険者の見様見真似、叩く、刺す、斬るといった単純な動作は真似できても型までは使えない。


 俺を襲ったゴブリンは3体だけ。

 ジェネラルを含む本隊と合流される前に、こいつらは片付ける!


「ギャッ……ギャギャッ!」


 俺をバカにした様な笑みを浮かべ、本隊側に一目散に走り出す。


 これこそゴブリンが厄介とされる2つ目の理由、モンスターでは上位の知性、狡猾さだ。


 人型モンスターというのは基本的に知性が高い。そしてゴブリンは弱いとはいえ人型だ。

 ある程度の知性が備わっていて、奴らは俺たち冒険者が嫌がる動きというのを知っている。

 それ故に群れで行動し、襲う時は常に集団、勝てない相手だとすぐに逃走し、勝てる強者に縋り付く。


 正直俺はジェネラルとやり合いたくない。

 だから下っ端ゴブリンのこの行動は厄介……という訳でもない。


 そっちがそう来るなら、俺は戦わないだけ。


 ジェネラルと雨太は正反対の位置にいる。

 向こうが反対側に逃げて来れてるなら、俺はこの隙に雨太と合流させて貰おう。


 周囲からの奇襲を警戒しながら、雨太の元へと走ろうとした——その時だった。


「うわあぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 大きな叫び声が聞こえる。

 声の正体は雨太、振り返り確認すると、雨太の周りには3体のゴブリンがいた。


 ——しまった。

 雨太の元にも別働隊を送ってたのか…


 迷ってる暇はない。

 ここは【神出鬼没】を使うしかない!


 ナイフを取り出し、雨太の近くに投げつけようとしたが、寸前で止める。

 何故なら、雨太の体から炎が立ち昇っていたから。


「こ…来ないでよぉ………助けて、!!」


 次の瞬間、炎は勢いを増し大きな火柱となった。火柱に巻き込まれた3体のゴブリンは、最も容易く塵に変わっている。


 そして数秒後、火柱から1人の少年が現れた。


「こんな雑魚相手にビビるなんて…全く仕方ない奴だな、雨太は。」


 姿形は雨太そのものだ。

 違いと言えば、髪が逆立ってるくらいのもの。

 たったそれだけの違いなのに、明らかに雨太とは違う雰囲気を纏った少年がそこにはいた。

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