第24話 窮地

 落ち着け。

 まだこっちの存在がゴブリンたちにバレている訳じゃないんだ。

 ここは逃げ一手、それが最善策。


 8階層は比較的見通しの悪い森林地帯だ。

 大きな木々で姿を隠すことは容易だが、遮蔽物が多くスピードは出せない。


 ゆっくりと気配を消して、7階層に登る階段まで戻る。

【神出鬼没】は最終手段だ。


 現状、俺が【神出鬼没】で飛べる場所は自宅・ギルド・金川の居る場所の3つ。


 自宅は俺のプライペートゾーン、ギルドも他ギルドのメンバーを入れるのはよしとされていない。残す金川の元なんてのは論外。


 そりゃもちろん、最終手段として使うことは視野に入れているが出来る限りこの3箇所には飛びたくない。


「雨太、逃げるぞ。」


「え、でも僕、あのモンスターを倒さないとパーティに戻れません。」


「あのな、はっきり言うけどたぶん嫌がらせだぞ。これ。」


 スキルを使えば強いが、普段は俺以下。

 俺より付き合いが長いであろうパーティメンバーが雨太のこの性格を知らない訳がない。


 それなりに強いモンスターの元に単身雨太を送り込んで痛い目に遭わせる。

 本気で危険を察知したら、どうせスキルが発動するんだ。死ぬことは無い。


 なんて考えだろうな。


「嫌がらせだなんて…そんな…」


「どっちにしろ、俺とお前じゃ勝ち目はない。パーティメンバーのところには俺も一緒に行ってやるから帰るぞ。」


 目に見えて落ち込んでいる雨太の手を取り、帰ろうとした。


 その時だ。


「ギャギャッ」


 ゴブリンの鳴き声。

 それも———近い!


 振り返る動作は無駄だ。

 いる。確実に、俺たちの背後に。


 反応できていない雨太を遠くに投げ飛ばす。

 多少荒っぽく強引ではあるが仕方ない。

 ゴブリンに殴られるよりはマシだと思ってくれ。


 雨太を逃した直後、背中に走る鈍い痛み。

 背中と両足の3ヶ所、骨が折れる程ではないが鈍く体に響いて来る。


「この……離れろっ!」



 痛みに耐え、振り返りざまに剣を振り抜く。


 が、剣はゴブリンに当たらず空を斬る。



 ジェネラルゴブリンたちにはバレていないのと思ったが、参ったな……まさか別働隊が更に周囲を見張っていたとは。

 しかも、今の一連の騒ぎでジェネラルがいる本隊にも居場所がバレてしまった。


 まあ、唯一幸いなことといえば、雨太が気絶していることだ。

 さっき投げた後でどこかにぶつかったのか、完全に気を失っている。

 この状態なら【神出鬼没】を思う存分使える。

 向こうにはゴブリンもいないみたいだし、雨太の元まで辿り着けば俺の勝ちだ。


 さあ、気合いを入れろ、俺。

 なあに、数だけなら金川を攫いに来た奴らに嵌められた時の方が多かっただろ。

 あの時より強くなった。

 今の俺ならきっと、やれるはずだ。

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