第22話 気弱な少年

 ダンジョン6階層


 少年の後を追ってダンジョンに入ったが、肝心の少年がなかなか見つからない。


 あの子、何処まで行ったんだ?

 武器も無しに6階層だなんて…もしかしてあの子滅茶苦茶強いなんてパターンじゃないよな?まあ、どうせ返さなきゃいけないからいいんだけど……


 なんだか無駄足みたいな気がしてしまったが、ここまで来たら意地でも少年に渡したい。なんとしてでも見つけないと……


 そんな時、視界の隅に大きなリュックが映る。


 あれって……もしかして……


 近付いてみると


 ——居た、あの少年だ。


 声をかけようとしたその時、少年の前にライオンの様なモンスターがいることに気付く。


 あのモンスターは確かヘルタイガー。

 炎を纏う獅子型のモンスターで、高い攻撃力が持ち味だ。

 機動力と一度噛み付くと離さないといわれている炎の牙が脅威。

 群れで行動する事が多く、注意しなければいけない。


 ……マズい。

 あの子の周りに仲間は見当たらない。

 それに対してヘルタイガーは背後に仲間が6匹、身を潜めている。


 少年はどう見ても戦闘向きではない。

 今、目の前にいる少年の姿はどう見ても怖がっている。


 ——間に合うか。


 ここから少年までの距離は少し遠い。

 【神出鬼没】を使えば多少は早く着くだろうが、ナイフを投げるまでの間、少し時間がかかってしまう。

 その間、少年一人でやり過ごせるだろうか?


 そんな俺の不安は、杞憂に終わった。


 少年は両手を前に翳しながら大きな声で叫んだ。


大水流ビッグウォーターァァァァァ!!!」


 少年の前方に、津波と表現するに相応しい程の大規模な水流が発生する。

 水流はヘルタイガーを呑み込んで行く。

 少年のスキルが消えた頃にはヘルタイガーの姿も消えていた。


「あんな強いスキル使えたのか。はは、俺の助けなんか必要なかったみたいだな。」


 ヘルタイガーを倒した後、何故かその場で腰を抜かしていた少年の元へと歩み寄り、俺は短剣を差し出した。


「さっきぶり。これお前のだろ?」


 腰を抜かしていた少年は短剣を見るや否や立ち上がり、深くお辞儀をしてきた。


「あーー!!!僕の莫耶ばくや。探してたんです。拾って下さったんですね。良かったぁ〜。ありがとうございます。」


 どうやら相当大事な物だったらしい。

 追って来た甲斐があるというものだ。


「いいよ。元はと言えば俺がぶつかったせいで落としたんだし。」


「それでも本当に助かりました。僕、空野雨太そらのうたって言います。」


 人懐っこい笑みを浮かべながら手を差し出す雨太。

 俺はその手を握り返した。


「前山進だ。よろしく。」

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