第18話 もう一つ

 俺(前山進)VS昭和ヤンキー(山岸隆二)

 この戦いは俺の勝利で幕を閉じた。


 戦いを終えて闘技場に落としたナイフを拾っているといつの間にか観覧席から降りて来た叡山が声をかけて来た。


「実に素晴らしい戦いだったよ。良いものを見れた。ところで君が使ったスキルだが、あれは【神出鬼没】かい?」


 確信的な笑みを浮かべ問いかけて来る。


 やっぱり気付かれたか。

 こいつがこの決闘を仕組んだのもあの日俺が見せたワープ能力の真意を探る為に違いない。


 元々、俺の【神出鬼没】は『叡智の女神ソフィアデア』のギルドメンバーが所有していたスキルだ。

 ギルドマスターである叡山ならオリジナルの【神出鬼没】を知っている可能性は高い。

 似通った……というより、叡山から見たら全く同じスキルだろう。

 そんなものを使う人間を見つけたら気にしてしまうのも無理はない。

 なんせ固有スキルは他人と全く同じものが見つかった記録がないからだ。

 良くも悪くも目をつけられてしまったか…

 あの時は金川を助ける為にスキルを使ったけど、もう少し考えて行動するべきだったかもしれない。


 まあ、もう過ぎたことだ。

 いちいち気にしても仕方ない。

 片桐叡山はあくまで別のギルドの人間。

 個人情報であるスキルを詳しく教える必要なんてないのだ。


「さあな。お前が何を想像してるかは知らないけど、あれはお前が知ってるスキルじゃないよ。」


 嘘ではない。

 叡山が言っているオリジナルの【神出鬼没】と俺が【換骨奪胎】で作った【神出鬼没】はスキルの効果も違うし別物だ。


「ふむ、嘘ではない様だが何か隠してはいるね。ふ…まあ良いだろう。そもそも私と君とは別のギルドの者同士。スキルを教え合う必要はない。」


 俺の思惑を見透かしていながらも、敢えて深く追求はして来ない。

 それは恐らくこれ以上問いただしたところで俺が答えない事まで読んでいるからだろう。


「そんなことより、報酬はちゃんと準備してあるんだろうな?」


「勿論だとも。こちらが約束の金額だ。」


 膨らんだ茶封筒を手渡される。

 中を開いて確認すると約束通り、50万円が入っていた。


「あとこれも受け取ってくれたまえ。元々、これを渡したくて君を呼んだんだ。」


 そう言って叡山が渡して来たのは1冊の本。


「なんだ、これ?」


本の内容を見てみると、それは世界中の様々なダンジョンで発見されたモンスターが載った図鑑だった。


「それは世界中で発見されたモンスターの情報が載った図鑑だ。元々、金川くんにあげようと思っていたのだが君のギルドに行ってしまったので渡しそびれていた。」


「ああ、金川にね。まあ、預かっとくけどいいのか?もうギルドメンバーじゃないんだから渡す必要ないだろう。」


情報というのは貴重なものだ。

これだけのモンスターの情報、集めるのに相当の労力と金銭を使った事だろう。

それを簡単に別のギルドである金川に渡す必要なんてない。


「それは金川くんに必要なものだからね。私は彼女の力を禁じてしまった。君なら上手く使ってくれると私は信じているよ。」


 叡山の言葉が気にかかる。


 金川の力を禁じた?

 一体、どういうことだ?

 前々から気になっていたが、叡山は金川を異様に気にかけている様に思える。

 金川はただのランク2冒険者。

 ギルドに不利益だと判断したらあんなに簡単にメンバーを除名している叡山が、何故か金川だけは気にかけている節がある。


「……なあ、気になってたんだが、なんでそんなに金川を気にする。あいつになにかあるのか?」


「——驚いた。君は知っていると思っていたが……もしかして金川くんから何も聞いていないのかい?彼女のスキルの事を。」


「スキルなら知ってる。【四面楚歌】だろ。それがなんだっていうんだ。」


【四面楚歌】

 使い方次第では非常に強力なスキルだという事は理解できる。だが、これに叡山がそれほど興味を示すとは思えない。

 言い方は悪いが、【四面楚歌】を超えるスキルなんていくらでも存在する。


「そちらではない。の方だ。」

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