第13話 一難去って

 次の日、俺はギルド『叡智の女神ソフィアデア』の前に来ていた。


 (あの時はワープして来たから気付かなかったけど……改めて見ると凄いな、これは。)


 見上げても屋上が見えない程の巨大ビル。

 どうやらこのビル全てが『叡智の女神ソフィアデア』のギルドらしい。

 俺たちのボロ小屋とは比べ物にならない。


 (そりゃ誰だってこんなギルドに入りたくなるよなぁ。)


 相手ギルドの巨大さに少しビビりながらも俺は自動ドアを通り受付へと向かった。


「いらっしゃいませ。ようこそ、ギルド『叡智の女神ソフィアデア』へ。この度はどのようなご用件でしょうか?」 


 凛とした雰囲気で栗色の髪を束ねた秘書を連想させる見た目をした綺麗な女性だ。

 受付から格の違いというものを見せつけられている気分だ。


「ギルド『銀狼の牙フェンリルファング』の前山進と申します。この度はそちらのギルドマスターである片桐叡山に呼ばれたので来たのですが……」


「かしこまりました。片桐に確認を取りますので少々お待ち下さい。」


 そういうと女性は奥へと消えてしまった。

 手持ち無沙汰だが不用意に動き回る訳にもいかないのでxその場で受付嬢の帰りを待っていると背後からいきなり声をかけられた。


「おい、邪魔だ!どけ!」


「——っと、悪い。」


 いきなり怒声とは短気な男だな。

 そう思い、俺は振り返った。


 男女4人組のパーティ。

 男女比率は3:1で男が剣士と盾職、女は魔導士と……あれは何だ?


 最後尾にいる1人の少年。

 まだ中学生くらいの年齢だろう。

 何やら大きなバッグを持って3人の後をついて回っている。

 あれは荷物持ちか?


 4人を観察していると先頭に立っていた金髪ピアスの男が詰め寄って来た。


「何だテメエ…見ねえ顔だな。ここが何処かわかってんのか。」


 胸元を掴み、メンチを切ってくる。


 昭和のヤンキーかよ、こいつ。

 それに力もなかなか強い。

 大手ギルドのメンバーだけはあるな。

 俺じゃ敵いそうにもない。


「気分を害したのなら悪かった。申し訳ない。ただ少し用事があって来ただけなんだ。すぐに帰るよ。」


 冒険者なのでこれくらい荒い人間が多いのは重々承知だ。

 たぶん気に食わない事があったんだろう。

 こういうのは相手にしない方がいい。

 俺は物を貰いに来ただけ。

 喧嘩しに来た訳じゃない。


 俺は適当に謝って喧嘩を買わない様にした。


「——ち、つまんねえなぁ!」


 男は不機嫌そうに胸ぐらから手を話すと荷物持ちの男の子に八つ当たりをしながらエレベーターへと向かって歩き出した——その時だ。


 エレベーターから1人の男が降りて来た。

 皆、その人物を見て姿勢を正し、挨拶している。

 それはあの昭和ヤンキー君も同じで、深々とおじきをしていた。


「やあ、進くん。よく来てくれたね。ところで……何の騒ぎだい?」


 片桐叡山だ。

 あの野郎、自分から降りて来やがった。

 せっかく何事もなく終わりそうだったのに……


「ま…マスター、これは…その……」


 さっきまで活きのよかった昭和ヤンキー君もすっかり怯えている。

 俺が叡山と知り合いなどとは思ってもいなかったのだろう。


「全て見ていたよ。監視カメラが設置されているのは知っているだろう?彼は私の客人だ。それを君は…なぜ彼の胸元を掴んだりしていたのかな?私が納得出来る説明をしてくれないか?」


「そ…それは……その……」


 叡山に詰め寄られ、何も言えなくなっている。

 ここまで来るとちょっと可哀想だ。

 まあ、別に助け舟を出そうとは思わないが。


「どうやら、君は私のギルドに相応しくないみたいだ。出て行くといい。除名だ。」


「ま、待って下さい!お、俺は———」


 こいつ、前の事件の男たちといい、随分とあっさり団員を除名するんだな。

 他所のギルドだから関係ないとはいえ、仲間だとかそういう信頼関係ってもんはないのだろうか?

 というかこんな見るからにガラが悪そう奴なんて最初から加入させなきゃいいのに。


 昭和ヤンキー君は何とかこのギルドにしがみ付こうと必死だが、まるで相手にされていない。

 このまま除名になる。

 誰もがそう思っていた時、叡山の口から信じられない言葉が出た。


「君の熱意は伝わったよ。そんなに残りたいのであれば、彼に勝つといい。そしたら君をこのギルドに置いてあげよう。」


 全員の視線が俺に集まる。

 何と叡山が指名した対戦相手とは——俺だった。

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