2章
第12話 成長
金川がギルドに加入して3ヶ月が経った。
俺たちは今、ダンジョン5階層に来ている。
目の前にはあの日苦戦したオーク。
だが、あの時とは違う。
俺自身もあの時より成長しているし…何より今の俺には相方がいる。
以前の戦闘で折れてしまったので新調したロングソードを抜く。
間合いを見誤らなければオークはどうって事ないのは以前の戦いで証明されている。
まずは牽制から。
俺は目線で木陰に弓を構えて身を潜めている金川に合図を出した。
音もなく、オークの左目に矢が突き刺さる。
目という急所に矢が刺さった事でオークは悶えのたうち回っている。明確に隙が出来た。
(——今だ!)
狙うは首元。
横一線に剣を振り抜き、オークの首は綺麗に跳ね飛ばされた。
「ふう。
「まあお互いにランク2だし、これくらいは当然でしょ。」
相変わらず強い口調だが、以前よりはマシになっていた。
あの事件以降、少しくらいは気を許してくれている様に感じる。
オークの残骸からドロップアイテムを確認する。
(『オークの耳』か…これは金にならないな。)
ドロップアイテムそのものが金にならない場合でもクエスト報酬には証拠品が必要なので持って帰らなければいけない。
また戦うのも面倒だしバッグの中にアイテムを入れようとしたその時、俺は気付いた。
バッグの中が満タンな事に。
(これ以上は入りそうにもないな。)
「金川、そっちのバッグに余裕あるか?」
「私の方も満タンよ。なに?入らないの?」
どうやら金川の方も無理みたいだ。
まあ、今日は朝早くから潜ってるし満タンになるのも仕方ない。
半日以上は潜ってたし、そろそろ切り上げ時だろう。
俺は仕方なく『オークの耳』を右ポケットに入れると帰宅の準備をした。
「そろそろ帰るか。荷物が満タンじゃこれ以上やっても金にならないし。」
「そうね。わかったわ。」
金川はそう言うと、俺の側に駆け寄って来て右肩に手を添えた。
この行動には意味がある。
これは【神出鬼没】で一気に地上へ同時ワープする為に必要な動作だ。
俺の【神出鬼没】は基本的には自分か自分の触れている物しかワープ出来ない。
よって複数人でワープする際は、こうして俺に触れないといけないのだ。
(えっと…この辺でいっか。)
俺は近くあった木の根元にサバイバルナイフを突き立てた。
このサバイバルナイフを目印に次は一気に5階層からスタート出来るという訳だ。
「それじゃあ飛ぶぞ。」
俺たちはギルドにワープした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お〜、お疲れさ〜ん。」
ワープ先で俺たちを待ち構えていたのはやる気もなく顔に新聞を被せて寝ていた斗真。
音か何かで気付いて起きたんだろうがよだれの付いた新聞でバレバレだ。
全く…こいつはいつ働いてるんだろうか?
かれこれ5年以上の付き合いだがダンジョンに潜っている姿を見たことがない。
俺たちがギルドに納めている金額なんて報酬の1割程度だしどうやって生活しているのか謎だ。
「便利だなぁ、そのスキル。お前、結構強くなってんじゃねえの?」
「まあ、前よりマシだけどそこまで変わんねえよ。人よりレベルが上がりにくいのはそのままな訳だしな。」
三進二退が真価を発揮するのはランクアップの時だけ。
それ以外はデメリットでしかないのだから、俺の中ではマイナス評価からちょっとだけプラスに評価が変わっただけだ。
「ま、それもそうか。ああそうだ。お前らに客が来てたぜ。確か……片桐叡山って言ってたかな?明日ギルドに来てくれだと。なんか渡したい物があるってよ。」
片桐叡山といえば金川が以前に所属していた大手ギルドのギルマス。
あいつが俺たちに渡したい物?
正直、気乗りはしないが渡したい物っていうのが気になるのも事実。
ここは思惑に乗ってみるか。
「わかった。明日だな。」
こうして俺は2度と会いたくないと思っていたあの男とまた顔を合わせる事になった。
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