第10話 片桐叡山

 スキルを作り始めてどれくらいの時間が経っただろうか。

 俺はようやく、新しい【神出鬼没】を完成させる事が出来た。


 よし、後はこれが上手くいけば金川のところに行ける。


 【神出鬼没】に与えた制限は『ワープ先は俺の所持品がある場所に限定する』といったものだ。

 ワープ系で制限するといえば、視界に入る位置までなどが思いついたがそれだとこの何処かも分からない場所から抜け出せない。

 必要なのはこの場所を抜け出す事だ。


 よってこの案は却下。

 次に思い浮かんだのが、マーキング等の印の先にしかワープできないというもの。

 これなら条件次第でそれなりの距離をワープ可能だ。

 よってこの制限を採用したが、次の課題は何をマーキングとして設定するかだった。


 対象を限定し過ぎても使い勝手の悪いゴミスキルになってしまうし、かといって条件をゆるくしたら制限にならない。

 それで思いついたのが、『自身の所持品を対象とする』だった。

 ここでいう所持品とは俺が金銭を支払い購入したものを指している。

 なぜこれにしたかと言えば、この条件なら金川に渡してある弓矢にワープ出来る為、脱出と救出を同時にこなせるから。


 【換骨奪胎】、便利なスキルではあるが使い方が難しいスキルだ。

 一度作ったスキルを元にもう一度作り直す事は出来ないっぽいし残り2回は慎重に選ばないと駄目だな。


 スキルを作っているうちに体力を少しは回復した。

 剣は折れて武器はないけど、【神出鬼没】を得た今なら戦わなくて逃げればいい。


 よし、準備は整った。

 上手く発動してくれよ。


 (【神出鬼没】、発動)


 オリジナルの様にゲートが出ることはなく、一瞬のうちに俺の姿はその場から消えていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 (ここは……部屋か。誰のだ?)


 視点が変わり、眼前に広がる光景は特に何の飾り気もない真っ白な部屋だった。

 広さはそれなりにあり、窓際に置かれた机には一人の男性が手を組み座っている。

 その男性は俺を見て少し驚いた顔をしていたものの、すぐに平静を取り戻し、俺に話しかけて来た。


「君は誰だ?一体どこから入って来た。」


「ギルド銀狼の牙フェンリルファング所属、前山進。訳あってダンジョンから来たけど…こっちも質問いいか?ここに金川美玖って女の子がいる筈だが…どこだ?」


 初対面の相手だが、金川を連れ去った仲間だと思うとつい口調が強くなってしまう。

 それに俺は弓矢をワープ先として飛んだのに、辺りを見渡しても金川の姿はなく俺が渡した弓矢は部屋の隅に置かれている。


 こいつが何かしたに違いない。

 そう思っていたが、思いの外男はあっさりと金川の居場所を白状した。


「そうか、君が…。金川くんなら心配せずとも君たちのギルドに帰っている頃だよ。その弓矢は彼女が置き忘れてしまってね。後で誰かに持って行かせようと思っていたんだが…悪いが君に任せてもいいかな?」


 目の前の男は終始穏やかな物言いで、そう言い放った。


 はっきり言って胡散臭い。

 別に悪い奴だとかそういう感じじゃないが、どうにも信用できない。

 直感でそう感じ取っていた。


「わかった。これは金川に渡しておく。邪魔して悪かったな。」


 一刻も早くこの場所から立ち去りたい。

 弓矢を手に取り自宅までワープしようとしたが、男はまだ俺を逃す気がない様子だ。


「君の事は金川くんから聞いているよ。悪かったね。元とはいえ私のギルドメンバーが迷惑をかけた様だ。救助の為に何人か向かわせたのだが自力で帰って来るとは…君はランク1だと聞いていたのだが、どうしてだい?」


「素性の詮索はマナー違反だぞ。」


「おっと、そうだった。これは失礼。どうも興味のあるものは知り尽くしたくなる性分でね。不快な思いをさせたのなら謝るよ。」


 ははは、と笑ってはいるが鋭い眼光が俺を見据えている。

 正直、いい気はしない。


「もう帰ってもいいか?」


「ああ、引き止めて悪かったね。私は片桐叡山かたぎりえいざん。ギルド『叡智の女神ソフィアデア』のマスターだ。今回の件の詫びといっては何だけど、何かあったらうちに来るといい。手を貸すよ。」


 その言葉を返事を返す事もなく、俺は【神出鬼没】を発動して部屋から立ち去った。


「今のはやはり【神出鬼没】。前山進か……面白い。」

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