第8話 起死回生

 右手に握られた斧から放たれる一撃は大地を割る程のパワーを誇る。

 ランクアップしたばかりで浮かれてる冒険者を圧倒的なパワーで捻り潰す。

 それがこのオークという化け物だ。


 今の俺はランク2、レベル10という非常にいい状態だ。

 もし後レベルが1でも上がっていたら【三進二退】が発動してレベル9まで下がってた。

 今が俺のベストコンディション。

 果たしてこの化け物にどれほど通じるだろうか…


 まずは様子見。

 オークが一番苦手そうなスピードで勝負を仕掛ける。


 敵の間合いに入らない様、一定の距離を保ちながらオークの周囲を駆ける。

 その見た目通りというべきか、案の定オークはスピード勝負が苦手なようで次第に俺を動きを目で追えなくなっている。


 敵の懐に入り過ぎないギリギリの距離まで近寄り、死角に入ったところで斬りかかる。

 薄皮一枚を斬り裂く程度だがダメージは確実に与えていた。


 攻め過ぎては危険だ。

 オークには一発でこの戦況を逆転できる力がある。

 大丈夫だ。

 皮膚は硬いが刃は通ってる。

 このまま攻め続ければ勝てる。

 そう思っていた。


 同じ攻撃パターンを繰り返し、どれ程の時間が経っただろう。

 オークの体には浅いが切り傷が沢山ついている。

 流石に俺も疲れが回って来ているがあの傷ならそろそろ倒せる筈だ。

 後少し…後少しでオークを倒せる。

 その時は訪れた。


 剣を振り抜いた途端、何かが砕ける音が鳴り響く。


 剣が——軽い。


 刀身がない。

 俺の脚より先に剣が寿命を迎えてしまった。


 (うそ……だろ。何でこのタイミングで…)


 この時、一瞬だけオークから視線を離してしまった。

 それが間違いだった。


 激しい衝撃と共に体が宙に舞う。

 気がつくと俺は地面に倒れ込んでいた。


 体中が痛い。

 節々に痛みが走り右手は動かない。

 骨が折れてしまっている。


 ゆっくりとオークが歩み寄って来る。


 (やばい。このままだと死ぬ。くそっ!動けよ。俺の体!)


 辛うじて立ち上がるがオークはすぐ目の前にいる。

 剣を失い、右手も動かない。

 こんな状況で俺に出来る事。


 賭けだがあのスキルを使うしかない。


 オークの動きは決して早くない。

 斧を振り下ろされる前にスキルを当てれば俺の勝ち、外せば負け。


 (まだだ……あと少し…あと少しだけ前にこい!奴の体に触れさえすれば…)


 動けない俺の目の前で立ち止まり、両手で斧を振り上げるオーク。

 

 (——今だ!!)

 

 斧を振り下ろされる前に力を振り絞り、懐に入り込むと残った左手をオークの腹に押し当てた。


「【起死回生】」


 スキルの宣言と同時に、俺の左手から凄まじい衝撃波が放たれた。


 スキル【起死回生】

 受けたダメージを倍にして返すスキル。

 ただし受けたダメージが少ないと発動する事すら出来ない一発逆転のスキル。


 どのくらいのダメージで発動するか分からないスキルだったから使用を躊躇ってたけど、上手く発動してくれて助かった。


 【起死回生】の衝撃波でオークの腹部に大きな円形の穴が開く。

 当然の様に生きている筈もなく、オークの体は“パリン”という音と共に砕け散った。


 この戦い、俺の勝ちだ。

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