第7話 待ち受ける強敵
蹴り飛ばされた反動で地面に数回バウンドしながらも何とか痛みを堪える。
倒れてなんかいられない。
一瞬でも気を抜けば死ぬ。
そんな状況だから。
ざっと見渡すと大半のモンスターには見覚えがある。
1階層から3階層までで出会う程度のモンスターばかりだ。
当然といえば当然か。
モンスターを捕獲するなんて芸当は普通に討伐するよりも遥かに難しい。
俺の見立てだと奴らはランク2後半の冒険者だ。せいぜい6〜7階層の実力。
安全圏で捕まえれるモンスターは俺でも勝てるような奴らに限られて来る。
(踏ん張れ、俺。ここで死にたくないだろ。)
自分自身を鼓舞して立ち上がると、牽制の意味も込めて最後まで握っていた剣を前に突き出した。
まずは数を減らす事が先決。
そう考えた俺は一番近くにいたにソニックウルフに斬りかかる。
出来る限り一太刀で終わらせれるよう首を狙って。
当然の如く、ソニックウルフは俺の剣を避けようとするが、モンスターの数が多いおかげで持ち前の俊敏さが失われている。
数が多いのは何もいい事ばかりじゃない。
特にモンスターの様な意思疎通も出来ないモノ同士だと、お互いの邪魔をしたり共倒れをしてしまうモノまでいる有様だ。
(よし!いけるぞ。これなら何とかなりそうだ。)
この時の俺は忘れていた。
俺には人より大きなハンデがある事を。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
丁度半分くらい倒しただろうか。
その時は突然訪れた。
『経験値が一定値を超えました。レベルアップします。』
頭の中に響く声。
何度も聞いたレベルアップの合図だ。
——しまった!
このレベルアップで三進二退の発動条件が整ってしまった。
俺のレベルが下がってしまう。
今までの感覚からすると1レベル下がるだけでもそれなりに身体能力が下がってしまう。
普段なら調整して弱いモンスターと戦うが、今はそんなことを言ってられる状況じゃない。
この状況において、レベルダウンは命取りだ。
『レベル10に到達しました。ランク2にアップします。ランクアップボーナスとして【一石二鳥】を差し上げます。』
ランクアップボーナスで新たなスキルが得られたが、問題はその後。
すぐに俺のレベルが下がってしまう。
『スキル【三進二退】を発動します。レベル10から8に下がりました。』
ランクアップをしてもレベルはしっかり下がってしまった。
最悪の状況だ。
レベル9の状態で戦ってたから何とかなったが、今の俺はレベル8。
さっきよりも弱くなっている。
案の定体の動きにさっきまでのキレはない。
モンスターの数も減って来て、同士討ちも狙えなくなって来た。
それでも鈍くなった体を無理矢理動かして戦い続ける。
動き続けなければそこで死ぬ。
ただ死にたくない一心で無我夢中に剣を振り続けた。
『経験値が一定値を超えました。レベルアップします。』
それはそこから更に10体ほどのモンスターを倒した時だった。
通常ではありえない速さでレベルアップの合図が聞こえる。
空耳かとも思ったが体が軽い。
数分前の自分に戻ったみたいだ。
これは間違いなくレベル9動き。
(どうしてこんなに早く…まさか、レベルが下がってもランクアップボーナスで貰ったスキルはそのままなのか!?)
思い当たる節はただ一つ。
数分前にランクアップボーナスで得た新たなスキル【一石二鳥】
【一石二鳥】
モンスターを1体倒すと倍の経験値を得られる。
大したことないスキルに見えるが、これはレベルアップが遅い俺にとって、最高のスキルだ。
(これなら——いける!)
俺はモンスターとの戦闘経験が他の冒険者より遥かに多い。
三進二退のせいで何度も何度も同じ敵と戦わなければいけなかったからだ。
だが、その経験が今この場で活きていた。
下層で2年も同じモンスター相手に戦い続けた冒険者なんて俺くらいのもの。
敵の行動パターンに反射で反応出来るようにまでなっていた俺は、50体のモンスター群れを相手になんとか生き延びていた。
同士討ちと俺が数体倒したおかげで残り12体まで減っている。
下層のモンスターとは何度も戦っている。この数なら負ける事はないだろう。
それからも戦い続けた。
モンスターの動きを先読みして攻撃を避け、隙を見てはトドメを刺した。
剣を振るたびに傷も増えるが、敵も減る。
そうしているうちにモンスターはその数を減らし、とうとう最後の1体となった…が
(クソっ!何で今までこんなやつがいる事に気がつかなかった。いや、もしかして最後にこいつが出る様に仕組まれてたのか?ったく、悪趣味な奴らだ。)
全長2メートルはある巨体に緑の肌、そして手には大きな斧を握った人型モンスター。
間違いない。
奴は5階層以降に出て来ると言われているモンスター、オークだ。
『経験値が一定値を超えました。レベルアップします。レベル10に到達しました。ランクが2にアップします。ランクアップボーナスとして【起死回生】を差し上げます。』
さっき倒したモンスターでちょうどレベルアップした様だ。
頭に流れるスキルの説明を聞きながら、目の前に敵に集中する。
オークは5階層以降に現れる化け物。
気を抜いたら——死ぬ。
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