Once upon a Time
XX years ago【1】
××年前。『愚者の町』の海辺にて。
「――――……ミ。――――そこのキミ!」
ちょうど昼時。人々が午後の仕事や学業のために休憩を挟む時間、海辺にはふたつの小さな人影があった。
ひとつは波打ち際に、もうひとつはその影に向かって呼びかけていた。
呼びかける影の主は、小さな女の子だ。砂についてしまいそうなほど裾の長いワンピースで、ちょこちょこと歩いている。
「~♪」
しかし、海を向く小さな子どもには、彼女の呼びかけは届いていないようだ。
「おうい、キミ。……キミだよ、キミ。そこの坊や!」
「~♪」
何度呼びかけても、少年は海に向かって歌い続けるばかりで、少女には目もくれない――のではなく、そもそも彼は彼女の声はおろか存在にも気付いていないらしかった。
「…………ダメだ。歌うのに夢中で聞こえてないな、こりゃ。波の音か? ……いや、綺麗だけどやたら大きい声だから、自分の声に消されちまってるのか。……まぁいいさ。お~い、そこの坊や!」
暴れ回っていたワンピースの裾がおとなしくなる。少女は少年のすぐそばに迫っていた。
「!!」
少年はびくりと肩を震わせたのち、声のした方向へ身体を向けた。
「だ、だれ…………?」
おずおずと尋ねる声は、堂々とした歌声とは打って変わって細く掠れていた。
「怖がらないでいい。怪しい
少女は両手を挙げ、武器となるものを所有していないことを示した。
「それって、あやしいひとの『じょうとうく』ってやつじゃないの……?」
疑惑のまなざしを向けた少年は、一歩後退った。
「あれま! 難しい言葉を知ってるようだ。知ってるだけじゃない。正しく使えてる。おまけに危機管理能力もあるときた。感心感心!! この国の未来も明るいねぇ!」
少女は腕を組み、大きく頷いた。言動も仕草も、
「…………へんなの」
「ちょいと、坊や。あたしのどこが変だって?」
「きみもぼくとおんなじくらいでしょ? なのに、『おとな』みたいにしゃべってるもん。これが『へん』じゃなかったら、なんなのさ」
武器のないことを確認し、だんだん警戒心が解けてきたのか、少年はふんと鼻を鳴らした。
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