第20話 やしろじろじろ

「これで、拠点の確保は完了じゃ」

 ビシリっ、と手を前に伸ばし手のひらを見せつける、決めポーズ。

「これで、エネルギーを溜めることが出来るのな?」

「そうじゃな。流れ込んできた霊思れいしはこのやしろへ蓄えられる。逆に此処ここを通して、村全体を覆う領域に繋がっておるのじゃ。言うなれば村全体が、魂の外の膜……というか? ぬぬ?」

 誰に説明する必要も無かっただろう、感覚を言語にするのはなかなか難しいだろう。

「この社が『脳とか臓器』で村が『体・皮膚』みたいな関係か? 実際に動かすことは出来ないけど、神経とかが通ってる的な」

「うん? うーん……だいたいそんな感じじゃ」

 理解と説明をまとめて放棄なされた。


 

 室内は凸型をしている。

 出っ張った部分に簡素な祭壇が置かれている神様の居処いどころ。社の大部分を閉める四角い空間が、祭事やお祓いなどの儀式をする際に、人が集まるスペースだろう。だったのだろう。

「あっちが寝室で、こっちが茶の間じゃ」

 そういう事らしい。


 茶の間と言われた大きな空間には、祭事で使用するための祭具・太鼓など他に、折りたたみの机やパイプ椅子などが有るが、それらは出来うる限り部屋の隅に追いやられていた。

「肩身が狭いなぁ」

「まぁ、使う者もおらんでな」

 もしかして、軽く地雷だったか。

 

 土足厳禁。入ってすぐの土間で靴を脱ぎ、畳や絨毯を引いたごろ寝スペース完備。複数人掛けのソファーに小物棚や、アチコチに置かれたぬいぐるみ達。水回りこそ無いものの、寝に帰るだけなら普通に住み込みが出来そうな、ちょっとした快適空間だ。

 『神様のお住まい』と言うには随分とキャッチーと言うか世俗というか。



 お宅訪問で周囲をぐるりと眺めてる間に、ニヨリ様はソファーに座って大きなとうもろこしクッションの抱き心地を堪能しておられる。顔がついているので、何かのキャラクターなのだろう。

 あちらも久しぶりの再開か。ご両人の邪魔はせずに見学を続けさせて貰おう。

「ニヨリ様、部屋ん中、もうちょい見て回ってても良いかな? 触っちゃ行けないものとか有る?」

 念の為。大事な祭具など貴重品が混じっていたら怖い。

「んー? 本殿の御神体くらい……まぁ、ソレも別に構わぬか」

「はい」

 触れたら封印が解かれるなどのギミックは無いようだ。残念。


 

 まず一番に目を引いたのは、収納棚の上の存在感を放つ木彫りのクマの存在感。久しぶりに見た気がする。

 熊がのっしと足をかける岩場には時計が組み込まれており、デザイン的に優れており一見実用性も高そうなのだが、その時計が小さめで置き時計として一線を張るにはやや実力が不足している。

 

 棚には他に書籍や雑誌が少々の他、絵本や図鑑に折り紙大全集。ミニカー、そろばん、孫の手に……クッキー缶。

「子どものおもちゃ置き場だな」

 ちらりと持ち主に視線を向けると、持ち主はソファの上で船を漕いでいる。

 先程から振り向くたびに、とうもろこしを抱える腕からだんだんと力が抜けていき、代わりに顔が埋まっていくのが面白い。

 蓋付きの缶は大事なモノ入れだろうか。改めて許可をとってからにしよう。

 

 隣の棚はお茶やコップなどの食器類。他には折りたたみの机や座布団等が有る。

「これが全部お供え物なのか……体よく物置にされてるだけなのか」

 愛されている、そういうことにしておこう。



「ふごぁ」

 詰った空気音に注意を惹かれると、音の主は驚いた表情で目をぱちくりさせている。クッションに埋まりすぎて呼吸が苦しくなったか。

 

「お疲れ、少し休もうか」

 久々の実家だし、時間旅行も力を消耗するのだろう。俺も部屋の隅に合った座布団を掴むと、ソファーの前に移動する。


「ほ、おおぉ、すまぬ。いま茶を用意しようぞ」

「あ、いえ。お構いなく」

「こちらじゃと、茶菓子もあるぞ。何が残っていたかのぅ」

 入れ替わりで棚をまさぐりに行ったので、こちらは折りたたみテーブルなどを用意して、お待ちすることにしよう。


 ◇


「第二回ー、神前会議ー」

「わーぱちぱちぱちー」

 気合を入れようとタイトルコールをしてみたが、のっけからやる気のない二人。

 祠よりも数段強めのまったりパワーに包まれている。すごい、5倍以上のエネルギーダウンがあるぞ。


 お茶菓子は煎餅だ。大袋の口がすでに開いていたが、記憶が統合した影響でいつ開いたかハッキリしないため、優先的に消費するように促される。それ記憶の統合うんぬん関係ある?


「これも、お供え物なのかい?」

「そうじゃな、まぁこの体は飲み食いせずとも問題はないのじゃが」

 ぱきっ、と一口。うん、ほんのり湿気ってるかな。でも甘じょっぱくて普通に美味しい。


 ズズズ、ポリポリ。

 ふぅ。


 雑音の混じった静寂が心地よい。

 それにしても静かだと思ったら、ちょっと目を話したスキにまた神様が船出しておられた。


「ニヨリ様ァ?」

「ほ、なんじゃ」


 ビクッと、体を震わせる。

「当初の目的はクリアしたので、やっぱりひとまず休もうか?」

 久々の安住の地だろうさ、ゆっくりお休みよ。

「そうじゃったのそうじゃったの」


 ソファーから立ち上がり。

 右手は腰に、左手を正面に。お決まりの威厳のある構えだ。

 なにか言い出すのかと煎餅を咥えて待っていたが、特に何も言わず静かに座り直した。


「やっぱりお疲れだろ?」

「体はむしろ回復しておるのじゃ。ただ、頭がぽへぽへ〜なーのじゃ〜」

 力の充実は感じている。ただそれを上回るほどの実家力が働いているのだ。

 初めて訪れた俺でさえこうなのだから、繋がりの深い神様を即落ちさせるパワーが有っても可笑しくない。恐るべし神殺しの力。

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