第14話 まにまに

 改めて考えるが、それにしたって十年は長い。

 十年一昔。振り返ればあっという間な気もするが、十年前は俺もまだ学生だった。

 

「そいやっさ、期間を短縮する方法ってのは無いのかい?」

「可能では有る。崇敬者、信者……氏子と言うのが一番しっくり来るかの。氏子の数が多いほど、力を得ることが出来るのじゃが」

「宗教法人、ニイヨリのミコト。氏子兼共同代表一名。だものな」

 十年というのは、俺一人が作り出せる霊思エネルギー。言わば、ほぼ自己治癒力だけでの見立てらしい。


「得られる力は、信心の深さでも代わる」

 なので『主が我神を信望すればするほど、力の溜まりも早くなるぞっ。ほれ、どうじゃ崇めよっ』と両腕を拡げてわしゃわしゃする様子を観ると、十年どころか一億と二千年くらい掛かるかも知れない。


「他にも問題が有ってのぅ? 祠がかなりのご覧の有様じゃ。この中に、再生に必要なだけの力を溜め置けるかも怪しい」

 周囲にはホコラバリアーが張ってあるとはいえ、見た目からしてかなり寒々しい。

 なんせ先刻の顔面キャッチで出来た穴が、ずいぶんと大物すぎる。

「リフォームが必要か」

 当社は非常に風通しの良い職場です。


「このままでは溜めた霊思もボロボロとこぼれ落ちてしまう。そして直すのも大儀なんじゃが、なにせこの河原に在るままじゃと、川に流される危険性も有るでのぅ」

 例の過失致死事件のダメージが、ダブルで効いていた。

「うーん、前途多難っすねぇ」

 まぁ、それでも地道にやるしかないか。



「というわけで、選ぶ道は」

 指先をぴぴん、と二本立てる。

「二つじゃ」

 予期せぬ複数案に耳をそばだてる。神様の様な耳があれば、露骨に動いていただろう。


「2パターン、有るんだ」

 姿勢をただし、正座し直す。

「一つは、このまま地道にエネルギーを蓄える。先に言ったように祠の修繕と移設にも力を割くため、時間は更に伸びる可能性が高い。また、この先も何かトラブルに見舞われるやも知れぬ。確実とは言い切れぬが比較的堅実な道じゃ」


「ふむふむ」

 着実に一歩ずつゴールに近づける。悪い選択肢では無い。


「今ひとつは、全くの無駄足になるかも知れぬ。更に確証のない賭けになるのじゃが――」

「いやー待って待って、ちょっとストップ」

 両手を突っ張り、全力で静止する。


「な、なんじゃ……」

「いや、人が悪いぜ神様。そんな言い方されたら、選ばない訳にはいかないだろ?」

「何を言っておるんじゃお主は。自分が死んだと聞いた時より全然真剣ではないか」


 ぶっちゃけ、山奥で地道に気長なスローライフ。すこぶる魅力的な響きである。

 それが、ねぇ、はぁホント。


「本当に、ただ時間と力を浪費するだけの、意味の無い周り道になるかも知れぬのじゃぞ?」

「でも、可能性は有るんだろ? それなら試してみたくなるのが人情じゃない」

 寄り道、脇道、回り道。そんな心躍るワードを無視できるのなら、今ごろココに居るわけがない。

 

「神様、『無意味な寄り道』なんて無いんだぜ」

 ビシッ、と指を立てて決める。

 なお友人に言った際は「でも無駄はあるよな」と冷たくあしらわれたが、神様の心には響いたようだ。


「では、良いのじゃな?」

「はは~、神のまにまにに」

「まに……まに?」

「まにまに、仰せのままに。かみさまの、思いのままに」

「まにまに……まにまに、うむ」

 お気に召したようだ。


「よしっ!」神様は、意を決するように勢いよく立ち上がった。


「では、昔話に付き合え」

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