第12話 ヨリ道
「あと三日」
心躍る連休を目前に控え、小躍りしながら地図に打ったピンとルートを確認する。
ルートなんて言っても設定しているのは、最終目的地とその付近の『遠くて気軽に行けない特選スポット』くらいなものだ。
行くぜ、初めての最東端っ。峠を越えて、大平原も駆け抜けて。
道中でとろっとろのモール泉や、でかい湖畔の強烈な酸性泉に寄るのもいい。いや、それは帰り道のお楽しみに取っておこうか? とか。
やっぱ寄るなら一番いい温泉だよな。いや、一番良い場所は、じっくり堪能するために、温泉メインの旅までとっておこう。とか。
他人がやっているのを見たら、思わず引っぱたきたくなるような、逡巡を楽しむ時間。どうせ結局は走りながら決める。
ドライブが趣味になってからというもの、地図を眺める時間が格段に増えた。
普通の有名スポットをチェックするのはもちろんだが、地味な場所を発掘する楽しみもある。
目的地に向かうだけなら絶対走らない、一本横に逸れた峠道をチェックしてみたり、
一度通った道をなぞりながら、面白そうな場所をスルーしていて悔しがったり、
以前行ったラーメン屋が全然見つからないなと思ったら、閉業していてショボン顔になったりと、
時間が有ればあるだけ浪費してしまうので、意識して控えるほどには楽しんでいた。
今回のルート上にも、何か面白そうな寄り道スポットは無いかと地図をウリウリしてる最中、「んっ?」とマウスを動かす手が止まる。
目に留まったのは、ある村の住所だった。
「どこかで聞いたことが有るような……あっ」
それは、昔お世話になった先輩が話をしていた村の名前だ。
少し前に、冬道のスリップ事故で亡くなった先輩。特に事件性などはない。
仕事が忙しく、疲労が溜まっていたのかもしれない。
視界の悪い冬の日、夜に単独事故を起こし発見が遅れてしまったという。
よく有る、悲しい事故だった。
つい先日、部屋の掃除をしていて、偶然にもその先輩からの貰い物を発掘したところだった俺の心は揺れ動く。
「新織……あらおり、しんしき? なんだっけ」
記憶があるのに読めないというのも
そして今はもう、廃村になっている事が記事にされている。
「ふぅん……にいおり」
まぁ……直接の縁があるわけではなく、別に観光スポットが有るわけでもない。
それでも、気になってしまったのだから仕方がない。心の袖が触れただけの、これも何かの縁だ。
どうせ旅のルートの通り道。ぽちっとマーカーを打ち、旅程の一つに組み込んだ。
最近のキャッチフレーズは『寄り道LOVE』である。
回り道だって、寄り道だって、何かに繋がる道なんだぜ。
△
「といった感じで、村に来たんだけど……」
なんやかんや、休みを利用して気になってた所を回ってるんだと掻い摘んで話す。
「えぅ……はし、だめじゃぅっ…たろ?」
「はし……橋。そう、まさか落ちてるとは思わなくて」
野を超え山超え谷越えて、たどり着いた新織村は、橋の崩落により中に入る事ができなかった。
ぐぐって出てきたサイトの話だと、普通に集落に入ってたのに。まぁ10年くらい前の情報だけど。
「仕方がないから帰ろうか、って思った所で、帽子がトンネルの上まで飛ばされてさ――」
少しづつしゃくりあげる声も収まって来ている。続きの催促を受けて、話を進めた。
集落の入口をぶらつく不審者ムーブを堪能した後は、トンネルでの脱出劇だ。
改めて振り返って口にすれば、自分の無計画な右往左往っぷりがなかなかに香ばしい。
そうして話が終わる頃には、神様はずいぶんと調子を整えられたそうじゃった。
◇
出会いから半刻ほどは経っただろうか。神様は改めて対面に座り直し、深く一礼をする。
「いや、誠にあいすまぬ。寝起きでたいそう情緒不安定じゃった……」
顔を上げ、ビシッと突き出す右手にもキレが戻っていた。ただし、目と顔は赤い。
「トンネルの穴などは知らなんだ……。落ちた時に怪我は? 大事ないか?」
「擦り傷程度さ、お陰さまで」
「それは何より」
心配顔がゆるりとほころぶ。
『まぁ骨が折れてても爆散したんで無問題でしょ』などと、走り出しそうな口に滑り止めマットを叩き込む。寝る子を起こすな。
「我神も力が弱くなり、眠ってばかりでな。管理が行き届かずにすまぬ」
自分の言葉にまた感情が引きづられかけたのか、ズビーと鼻をすすり、目頭を押さえる。
先ほどまでの奮戦を伺わせる、赤くなった目と鼻が痛々しい。神様も色々と苦労してるご様子だ。
「一旦休憩にしますか?」
「いや、主も気になることが多々有ろう。一先ずそちらを片付けてからじゃ」
襟を正し座り直す。
「では、何から話をしようかの。と言っても我神も分からぬ事ばかりじゃ」
改めて神前会議が再開される。
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