第11話 冒頭帰結
「すまぬ……」
正座で頭を深く垂れる神様。
流石にこちらが申し訳なく感じて、土下スタイルからは体勢を戻してもらったが、三角の耳とふさふさだった尻尾、そのどちらもしょんぼりへにょっており、露骨に反省の意を表していた。
角も更に小さく縮こまり、とにかく本心からの謝意が伝わってくる。
角。立派な牡鹿のような。
……鹿の尻尾ってあんなフサフサ系だったっけ? いや、そもそも角が伸縮自在な事に比べれば些細な問題か。
さておき話を整理すると、状況が掴めてきた。
だが、ちぃとばかし小難しい話だ。ゆっくりと噛み砕こう。
▽
『神様。ニイオリのミコトは、この地で眠りについて居た』
祠はこの地を見渡せる場所、トンネル上の高台に建てられている。
その祠に祀られていた御神体が、何かの拍子で河原に転がり落ちた。俺が拾い上げたあの木像だ。
『連れてって、像も言っているような』
久々に現れた人の呼び声に応え、老朽化と地盤の崩落で不安定だった祠は、その吸引力に引かれて高台から吸い寄せられて、俺の頭にジャストヒット。
異変を感じて目覚めたニイオリ様が目にしたのは、神の一撃を受けて魂が転がり出た男だった。
スイカのように川でぷかぷかとしている魂を慌てて拾い上げると、一時的に自らの庇護へと回収する。
だが勢いよく引っ張りすぎた影響か、魂が神様のそれと同調をし始めてしまった。
今度は慌てて切り離すと、一旦、元の体に戻そうとしたらしい。
「爆発四散した」
「ん?」
「お主の体に、魂を無理やり戻そうとしたら」
「何が?」
「お主の体が」
したという話だった。
△
「うん、そっか」
あまりにもな超展開なストーリーに脳みその満腹中枢が白旗を揚げていた。
内側から吹き飛ぶと言う状況にも、想像力が足りず漫画チックな映像しか浮かんでこない。
敵に包囲され、絶体絶命の大ピンチ。
「ミジンガクレー!」の叫び声とともに、爆発四散。
敵をなぎ倒し、残機を1つ消費して収束復活すると言う、将軍忍者ザンゲツのゲームオリジナル必殺技を思い出す。
当時はその出来栄えにバカゲーとしてファンの賛否を呼んだらしい。
『まさに神妙すぎる空気だな』と、笑ってはいけない空気感を自ら強化して、今にも漏れ出しそうな笑いを噛み殺し続ける。
「……で、これからどうするかだ」
口に手を当て俯いたまま、静かに神様の前に腰を落ろす。
ゆっくりと視線をあげると、顔をぐちゃぐちゃにして涙を堪える神様の姿があった。
「本当にすまぬ……」
「ぶふぅtぅ」
堪えきれずに吹き出してしまった失礼な俺と、飛び上がる勢いでビクつく神。
「いや、ごめん。ごめん? 違う。まぁ、事故みたいなもんだろうし? どうも話を聞くと、そもそも半分は俺が引き寄せた見たいな感じだし?」
縮こまって怯えた目でこちらを見上げる神童に、むしろこっちが慌てて謝罪と弁明を始めてしまった。
「……うぐっ……怒っとらんのか?」
「別にその後、放置しても良かったんだろうし、何か今こうやって運良く助かった? みたいだし。どっちかと言えば、改めて、ありがとうなんじゃないスかね」
人を泣かせるなんて、まして子どもを泣かせるなんて慣れていない。
辿々しく、合っているのか分からない解釈を述べて、軽く頭を下げた。
数秒の沈黙の後、神様はまだこわばった顔で固まったままだ。
「だからさ、怒ってなんか無いってば」
俺史上最上級の、優しい笑顔で、その不安に応えた。
「うっ、うわーーーーーんっ!」
突然の慟哭に、今度は俺がビクつく。
どうやら選択肢を間違ったのか、更に大泣きせてしまった。
何もできず手持ち無沙汰な上半身が、しどろもどろの舞を披露する。
ふと、鞄の中にティッシュが入っていたのを思い出し、ぱきっと開いて渡してあげた。
◇
泣く子にゃ勝てぬ。
時は流れ、慟哭のターンは終わりを告げ、今は嗚咽の時代を迎えている。
様子を見るに、どうにも神様自身も自分の感情が可笑しいことを理解しているようで、なんとか溢れる涙を堪らえようと頑張っている。
「うぐっ……えっ……ぐぅまぬっ、ぅずっ」
ゾンビ映画みたいな濁音を発しながら涙を拭っておられる。
「えーと……少し落ち着いた? なんかお話しでもする?」
手持ち無沙汰すぎて、思わず口をついて出た謎の提案に、こくこくと首を縦に振る神様。
「あーと、じゃあ……神様はどれくらいここに居るんですか」
また涙を零しながら、ぶんぶんと首を横にふる神様。
しまった、また選択を間違えた見たいだぞ。
「お、おぅ、ぐっ、お主、お主ばっかり、い、ぎ、聞いてきてず、ずるい」
ガチ泣きすぎて、ちょっと引く。
そしてずるいとか久々に言われたわ。
「なんっ、こっ、ひっ、ぐぅ、なんで、きたの、こっこ」
「はいはい、えっと?」
脳内の解読班が急ピッチでキーボードを叩き、先ほど神様がコチラの話を聞きたい素振りをしていたことを思い出した。
「あっと、俺がなんで来たかって?」
うんうんと、頷く神様。
うっかりチャリでとか口走りそうになったが、そういう雰囲気ではない。
この地に来た理由かぁ。
そんな明確な目的がある訳じゃなかったので、逆に説明するのが難しい。
まぁ、ちょうどいい。話してる間に泣き止んでくれるかね。
記憶を整理するように、視線を右に左に。軽く息を吸うと、その逸話を語り始める。
「そうだな、俺がここに来た理由なんだけど……」
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